明日

藤村 「別にダラダラしようと俺の勝手じゃん」


吉川 「そりゃそうだけど、俺は何もしない日を過ごしたら勿体ないって思っちゃうから」


藤村 「勿体ないって思うこと自体が勿体なくない? 別にゆったりと過ごして楽しい気持ちでいてもいいじゃん。なんでそこでネガティブな気持ちにならなきゃいけないの?」


吉川 「でもさぁ、お前が無為に過ごした今日は、昨日死んでいった人がどれほど生きたいと願っても叶わなかった明日なんだぞ?」


藤村 「なにそれ?」


吉川 「なんだったっけな。小説か何かでそういうのがあったから」


藤村 「気持ち悪すぎない?」


吉川 「気持ち悪い? そんな風に言われると思ってなかった」


藤村 「だって、俺の今日だよ? なんで他人が自分のものになる予定だったみたいな意識でいるの? 気持ち悪っ!」


吉川 「そういう意味じゃないだろ」


藤村 「え、だってどうにもなんないだろ? 俺の人生なんだから。勝手に羨もうが何しようが、お前はお前の人生しか生きれないんだろ。それいいなーって言われても困るよ。なんでそんなこと言う権利があると思うの?」


吉川 「そう言われちゃうとさぁ」


藤村 「じゃあ俺がさ、港区女子を囲って変なパーティをやってる品性を失った代わりに金を手に入れた社長に向かって『それ、俺がやりたかったやつです!』って言ったら感銘受けるのか?」


吉川 「それとこれとは違うんじゃない?」


藤村 「一緒だろ。言われた方は『知らないよ』としか思えない。俺が大谷翔平に向かって『それ、俺が打ちたかったホームラン!』って言ったら周りは配慮してくれるのか? 『あれはお前のホームランだ』って言うやついるか? 頭おかしいと思われるだろ」


吉川 「でも命の問題とはさ」


藤村 「俺が麻雀やってて、上家が風牌をきった時に『それ! 俺が欲しかった牌です!』って言うのと一緒だぞ」


吉川 「それは鳴けよ。別にルールとしてあるから。欲しかったやつもらっていいやつだから」


藤村 「あぁ、そうか。最後だけ間違えたわ」


吉川 「最後だけか? 他のは合ってた?」


藤村 「だって百歩譲って、金はあげられるじゃん。でも人生は渡せないだろ? まだ金のことを言ってる方が理性的じゃない? お前の一日寄越せってどういうシステム? 悪魔なの?」


吉川 「だからそういうことを言ってるんじゃないと思うんだよ」


藤村 「気持ち悪いよ、そんなやつ。死んで欲しい。あ、死んでるのか。死んで当然って感じだよ、そんな自他境界線が曖昧ですべて自分に権利があると思い込んでるやつ。生きてても迷惑だろ」


吉川 「めちゃくちゃ言うじゃん。ちょっとしんみりする名言のつもりだったのに」


藤村 「全然響かない」


吉川 「じゃあさ、もし100億円もらえるとして、だけどそのかわり明日死ぬとしたらお前はもらう?」


藤村 「もらわないよ、そんなの」


吉川 「だろ? ということは、お前の明日は100億円以上の価値があるんだよ」


藤村 「うわ! それは感銘受けるな」


吉川 「受けた? 今回はいけた?」


藤村 「俺も聞いていい? もし980円貰えるけど明日死ぬとしたらお前は貰う?」


吉川 「いや、貰うわけないだろ」


藤村 「じゃあお前の明日は980円!」


吉川 「違うだろ! 安めにするなよ! なんで4桁までいくと高そうな印象になるから3桁で抑えた感じで人の明日の価値を決定してるの?」


藤村 「ま、980円のために頑張れよ」


吉川 「以上だからね! 980円以上! もっとそれ以上!」


藤村 「1280円貰えるとして明日死ぬなら?」


吉川 「なんで毎回特売価格なんだよ!」



暗転

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