神に

神  「やっぱり愛だと思うんだよ」


吉川 「そういうこと言うイメージないなぁ。それって一神教の救世主が言ったりするやつじゃないですか?」


神  「ああいうの憧れてるから」


吉川 「憧れてるんだ!? 神様なのに?」


神  「八百万の神だとさ、ちょっと軽くなっちゃうじゃん。リスペクトがないっていうかさ。ちょっと妖怪のすごいやつだろ、くらいの感じに思ってるでしょ?」


吉川 「確かにそういう部分は否定できませんね」


神  「俺もね、愛したいの」


吉川 「はぁ」


神  「ほら、そっちにとっても悪い話じゃないでしょ? 勝利の神に愛されたとかさ、運命の神に愛されたとか、神から愛されるってステータスだと思うんだよ」


吉川 「笑いの神に愛されたなんてのもありますね」


神  「それだって一種の褒め言葉でしょ?」


吉川 「まぁ、嬉しい人にとっては嬉しいでしょうね」


神  「だから俺も愛そうかなと思って」


吉川 「そもそも何を司ってる神なんですか?」


神  「そういうのは別にいいんじゃない?」


吉川 「よくはないでしょ。そこが大事なんだから」


神  「まぁ、それはおいおい」


吉川 「なんで濁すんですか? 一応曲がりなりにも神様なんでしょ?」


神  「曲りなりって言い方はないだろ。ちゃんとした神だよ」


吉川 「なんの?」


神  「まぁその、神ってのはさ解釈によって様々な意味合いを持ったりすることもあるから。何か明確にするっていうのも違うかなって」


吉川 「だから何の神様なんですか? 言えないの?」


神  「言えないことはないよ?」


吉川 「じゃあ教えて下さいよ。何を司ってる神様なんですか?」


神  「おもらしだけど?」


吉川 「おもらし!? おもらしの神様?」


神  「あー、その顔。まじでテンション下がる。やめてくれない? 言うと絶対みんなそうなるから」


吉川 「いや、だっておもらしの神様?」


神  「だからおもらし関連の様々な人に役立つ事象とかを全面的に請け負ってる」


吉川 「おしっこ漏らすこととか?」


神  「それもだけど」


吉川 「他には?」


神  「うんこも少々」


吉川 「最悪じゃん。何その神様。むしろ神様が司ることなの? だってむしろおもらしは神に見放された人がすることでしょ」


神  「あー、そのレベルか。まるで素人だな」


吉川 「全然素人でいいよ。玄人になりたいと思ったことない」


神  「そのさ、おもらしって一言で言っても様々な状況があるわけだろ?」


吉川 「あんまりないと思うけど」


神  「本当? 想像力を働かせて。ちゃんと考えてみて」


吉川 「おもらしのことをあんまり考えたくないよ」


神  「そういう先入観がよくないと思わないの? おもらしにも良いところはいっぱいあるだろ!」


吉川 「ないよ」


神  「なんで知ってるの?」


吉川 「やっぱりないのかよ! 反論が来るかと思ったのに」


神  「ないけど、こっちだって神な以上はイメージを良くしたいわけで。そういうのを全部ひっくるめて愛してるというね」


吉川 「おもらしの神にだけは愛されたくないよ」


神  「あ、言ったな?」


吉川 「言ったよ」


神  「言質取ったからな。おもらしの神以外になら愛されてもいいってことだから! そう言ったから!」


吉川 「うわぁ! もっと最悪の神が出てくるのかよ。嫌だよ、愛されたくないよ!」


神  「いいのか? きな粉のお菓子を食べようと思ったら粉末が喉にダイレクトにきてむせる神とかでも!」


吉川 「おもらしよりはマシだなぁ」


神  「マジかよ!? あれより下? むせるだけよ?」


吉川 「その神の司る範囲の狭さも気になるけど、おもらしはそれより相当下だよ」


神  「猫の毛玉ゲロの神よりも!?」


吉川 「まぁ、それも嫌だけどさ。おもらしはもっと社会的にもまずいもん」


神  「神の中にはもっと最悪のやつだっているからな! 性格悪いやつだって!」


吉川 「いくら他の神様を下げてもおもらしの地位は上がらないと思うよ?」


神  「そんなことない! もうこうなったらあいつらのスキャンダル全部ぶちまけてやる!」


吉川 「もらすなよ……」



暗転

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