ぺてんし

面接

藤村　「お言葉ですが、確かに自分はローションヌルヌルかもしれません。でも熱意なら誰にも負けません！」

吉川　「驚いたなぁ！　まさかそこから食い下がると思わなかった！　あのさ、まず熱意とかの段階にきてないんだよ。なんでローションヌルヌルで面接に来たの？」

藤村　「それはプライベートに関することなんで」

吉川　「こっちがスッキリするような理由ないのかよ！　アクシデントとかであって欲しかったよ」

藤村　「お言葉ですけど、私だってローションヌルヌルじゃない時くらいありますよ？」

吉川　「そりゃあるだろ。むしろヌルヌルの時が希少だと認識しろよ。なんで今それじゃないんだ」

藤村　「それはプライベートなんで」

吉川　「なんなんだよ、そのプライベート！　この状況に持ち込む時点でもうプライベートの域を超えてるだろ」

藤村　「そこまで詮索されるいわれはありませんが」

吉川　「あるだろ！　そりゃ、人にはプライベートに色々あるよ。人に言えないこともあるかもしれないし。特殊な趣味の人だっているだろ。でもそれをこういう場に持ち込まないだろ？　持ち込んだ時点でプライベートじゃないんだよ」

藤村　「これってひょっとして圧迫面接ですか？」

吉川　「全然違うでしょ！　やめてくれよ。もう面接官はその言葉に怯えて生きてるんだよ！　この状況は誰が見ても私がおかしいこと言ってないと思うよ？」

藤村　「じゃあなんでプライベートなことまで言わそうとするんですか？」

吉川　「プライベートなこととして処理できないだろ！　ローションヌルヌルなんだぞ？」

藤村　「はい」

吉川　「はい！？　そんなにしっかりと捕球できる球じゃないだろ、ローションヌルヌルは？　なんで真顔で受け止めてるんだよ。自分がおかしいと思わないのか？」

藤村　「ですから、ローションヌルヌルが個人的に気に食わないというのでしたらそう言えばいいじゃないですか。それをネチネチと面接官であるということを笠に着て」

吉川　「違うだろ！　個人的なことじゃないよ。世間一般の常識だろ？　ローションヌルヌルを『そういうこともあるよね多様性の時代だから』って処理できるやつはまだこの時代にはいないんだよ！」

藤村　「その意見は御社を代表する見解と受け止めてよろしいですか？」

吉川　「よろしいよ。え、他の会社ではローションヌルヌルは特に引っかからずにスルーされたわけ？」

藤村　「他社の面接の時はローションヌルヌルじゃなかったので」

吉川　「じゃあなんで今はローションヌルヌルなの！？　ヌルヌルじゃないという選択肢があるならそっち選ばない？」

藤村　「それはプライベートに関わることなんで」

吉川　「何が起きてるんだよ、プライベートに！　ないよ？　普通に生活をしていてローションヌルヌルになっちゃったなってこと。今までの人生で一度もない」

藤村　「ご自身の経験だけがすべてで、それを基準に他者をジャッジするわけですか？」

吉川　「そんな面接官に厳しくあたれる姿か、それが？　ローションヌルヌルなんだぞ？」

藤村　「この経緯をネットに書いてもよろしいのですか？」

吉川　「怖い！　なんなんだよ。ちゃんとお互いの状況を含めて詳らかに書くならいいよ。でもどうせ変な切り取り方するつもりだろ？　面接官が容姿に対してハラスメントをしてきた、とか」

藤村　「それはもちろん、あなたがローションヌルヌルではなかったことも書かせていただきますが？」

吉川　「キミの正義の判断基準どこにあるんだよ！？　それはむしろありがたいよ。明らかにおかしいのはあなたの方だって読む人もわかるだろうし」

藤村　「だから、たまたま今はローションヌルヌルなだけで、もしそれが社風に合わないというのでしたら、こちらとしても対処はすると言っているんです」

吉川　「もし、じゃなくて。すんなり受け入れる社風はないよ？　そんな会社世界中どこにもないよ？　ローションの会社だって社員がヌルヌルできたら困ると思うよ？」

藤村　「わかりました。そこまで隷属化を強要するような会社ならこちらから願い下げです！」

吉川　「ええ、お互いにその方がいいと思います。一応決まりなので結果に関しては後ほどの連絡とはなりますが」

藤村　「どうせこの会社は滑り止めでしたから！」

吉川　「滑るに決まってるだろ！　ローションヌルヌルじゃ」

暗転