傑作っぽい

藤村 「そして吉川さん主演の最新作がいよいよ公開ということで」


吉川 「はい、そうなんです」


藤村 「私はお先に拝見させていただきました」


吉川 「いかたでした?」


藤村 「これがもうかなり傑作っぽくてですね」


吉川 「ありがとうございます」


藤村 「本当にすごく傑作っぽかったです」


吉川 「……ぽい?」


藤村 「はい。今年封切られた映画の中でもかなり上位に入る傑作っぽさでしたね」


吉川 「傑作だ、ということですか?」


藤村 「傑作っぽかったです」


吉川 「ぽいって何だ? 傑作だったとは違うの?」


藤村 「決して傑作というはずではないのに、なぜか傑作っぽくてですね。そのあたりも非常に楽しませていただきました」


吉川 「傑作ではないんだ? 決して? そんな強めに?」


藤村 「そうですね。あまり話すとこれから見る方々の楽しみを奪ってしまうので」


吉川 「もう結構奪ってない? なんかちょっとイメージがダウンしたような」


藤村 「いやいや、本当に! 途中までは本当に傑作なのかな、なんて思いましたけど、そこはさすが吉川さん。一筋縄ではいかない展開で、見事に傑作っぽくなってますね」


吉川 「俺のせいで傑作を台無しにしたみたいに言ってるじゃねえか」


藤村 「もちろん脇を固める俳優陣も一流っぽくて」


吉川 「一流だよ! ぽいって言うなよ」


藤村 「その方々との掛け合いも見どころで、まさに見る人を飽きさせないっぽいですね」


吉川 「飽きたの? 飽きさせないっぽかったけど、実際は飽きたってこと? そうじゃなきゃそういう言い方しないでしょ」


藤村 「いやいやいや、そんなことないです。物語的にはかなり胸を打つ展開になりますし、本当にあの場面は悲しいっぽかったです」


吉川 「そのぽいは何? 悲しいかどうかは自分の感情でしょ? わかるでしょ、悲しいのかどうかは。今私って悲しいっぽいな? って思うことある?」


藤村 「そのくらい、感情が揺り動かされる傑作っぽかったです」


吉川 「また傑作っぽい! 別に私だって自らこの作品は傑作ですと押し付けるわけじゃないけども! 傑作っぽいって言われても、その評価を上手く飲み込めないんだよ!」


藤村 「では吉川さんご自身はこの映画を何っぽいとお考えですか?」


吉川 「何っぽい!? え、いや? 何っぽいかどうかで考えたことなかったから」


藤村 「つまらないっぽいですか?」


吉川 「つまらないっぽくはないよ。評価は人それぞれだけど! なんか傑作っぽいって言われると傑作じゃなさそうだけど、つまらないっぽいって言われるとつまらなそうになるのなんで? 悪魔の言葉か?」


藤村 「というわけで、吉川さん。そろそろお時間っぽいのですが最後に一言よろしいですか?」


吉川 「そのぽいはいいのか。はい。キャスト、スタッフ一丸となって作りました。多くの方に楽しんでいただける作品になったと自負しております。是非劇場に足を運んでみてください」


藤村 「主演を務めたっぽい吉川さんでした。ありがとうございました」


吉川 「務めたんだよ? 本当に。ちゃんと主演だから!」



暗転


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