断捨離

藤村 「一言に断捨離と言ってもなかなか難しいですよね?」


吉川 「そうなんですよ。結局なんか勿体ない気がするんです」


藤村 「そんな断捨離をお手伝いできたらと思いまして」


吉川 「でも捨てるとなるとどうにも惜しくなっちゃってね」


藤村 「わかります。その惜しさはどこから来ると思いますか?」


吉川 「えー。なんだろ? 買った時の印象かなぁ」


藤村 「モチロンそれもあると思いますけど、なかなか捨てられない。それはいまいち思い出がないからなんですよ」


吉川 「思い出が?」


藤村 「買った時はなにかあると感じてたのに、意外と活躍の場面がなかった。そうするといつかは日の目を見たいという気持ちが残って捨てられないんです」


吉川 「確かに!」


藤村 「だから思い出を作ってお別れすればいい」


吉川 「なるほどー。ちょっと腑に落ちましたね」


藤村 「このジャケットなんてどうです?」


吉川 「これねぇ。これ自体は悪くないんだけど他と合わせづらくて。全然着てないですね」


藤村 「思い出は?」


吉川 「ないですね。そう言われると」


藤村 「なら作りましょう。ちょっと羽織ってください」


吉川 「はい」


藤村 「いきます」


吉川 「イデデデデデ! 痛ぇ! なにするんだよ!?」


藤村 「電流ビリビリです」


吉川 「なんで? なんでいきなり電流ビリビリしたの?」


藤村 「このジャケット、着たら電流ビリビリしたなっていう思い出ですよ」


吉川 「いや、あんたがやってるんでしょ?」


藤村 「そうです。ほら羽織って」


吉川 「イデデデ! やめろって!」


藤村 「ね? いつか不意に、あのジャケット、着た時の電流ビリビリは痛かったなぁなんて思い出しますよ」


吉川 「そんな嫌な思い出なの? もっとこれを着てどこかに出掛けたとか、誰かと楽しい時を過ごしたとかじゃなくて?」


藤村 「いや、こんなジャケットじゃ楽しい時を過ごせないでしょ」


吉川 「おい! そんなディスり方するなよ。まだ捨てるって決めたわけじゃないのに」


藤村 「捨てていいんじゃないですか? 着ても電流ビリビリするだけですよ?」


吉川 「だから電流ビリビリはお前が勝手にやってるんだろ!」


藤村 「取っておきますか? 電流ビリビリクソダサジャケット」


吉川 「クソダサ言うなよ! わかったよ。もういいよ。捨てるよ」


藤村 「このようにスムーズに断捨離が進んでいくという」


吉川 「スムーズか? 納得感がないけどな! 思い出っていうのか今の? 嫌な記憶じゃん」


藤村 「もちろんそうです。嫌な思い出ですよ? そうじゃないと未練が湧くじゃないですか。こんなの持っていたくないと思うくらいのものでないと」


吉川 「そういうことなの? 全然思ってたような断捨離と違うんだけど」


藤村 「さらにこのカバンですね」


吉川 「これはまぁ、たまに使うよ。物が少ないときとか」


藤村 「思い出あります?」


吉川 「思い出っていうか、普段遣いしてるから」


藤村 「思い出はないってことですね。わかりました。ではこの液体をちょっと振りかけて。はい、嗅いでみてください」


吉川 「クセッ! 何やったんだよ!?」


藤村 「臭い汁です。もう使う度に臭い思いしなきゃいけない」


吉川 「なんでそんなことするんだよ!」


藤村 「これも、思い出の一つです」


吉川 「お前がでっち上げた思い出だろ! ふざけんなよ! 使ってるんだぞ」


藤村 「どうします? 思い出が臭ってくるこのカバン。捨てますか?」


吉川 「捨てるしかないだろ!」


藤村 「という感じで思い出ができればスムーズに断捨離も進むという」


吉川 「いや、それはもう思い出があるとかないとかじゃなくて、臭いから捨てるんだよ」


藤村 「臭くなかったら思い出もないってことですよ」


吉川 「そんなことないだろ! 思い出これからできたかもしれないのに!」


藤村 「ちなみにこちらの時計は?」


吉川 「これは親父の形見だよ」


藤村 「思い出はない感じですか?」


吉川 「何聞いてるんだよ! 形見だって言ってるだろ。思い出しかないよ!」


藤村 「あ、思い出があるなら大丈夫ですね。これは捨てるということで」


吉川 「おいおいおい! 待てよ! その理屈もうおかしいだろ! 思い出あるから捨てられないんだよ!」


藤村 「あー、そういうタイプの方ですか? それならば無理に断捨離をしない方がいいかもしれません」


吉川 「何だよ今更!」


藤村 「思い出とともに過ごす方が活き活きとする人もいますから。ではこのカバンとジャケットもお返しします」


吉川 「お前! カバンの中にジャケット! 臭い! 全部臭い!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る