願い

魔神 「よくぞここまでたどり着き我を呼び出した。そなたの願いを三つまで叶えよう」


吉川 「ほ、本当にいたんだ! ではまず、ネットで自分と異なる意見の者をわざわざ探しては因縁を吹っ掛けていざこざを生み出すやつら全員、二度と笑顔を見せられぬほど惨めな人生を送るようにしてください!」


魔神 「え?」


吉川 「もう全員。惨めの局地にしてやってください!」


魔神 「いや、普通もうちょっと欲にまみれた願いとかしない? 初手でそんな真っ直ぐな悪意なの?」


吉川 「ここにたどり着くための旅は苦難の道だった。当初は俺だって金や女や権力などの欲望を持っていたさ。でも多くの人と出会い、そして助けられ、気づいたんだ。大切なのはそんなものじゃないって!」


魔神 「……で? え? 終わり?」


吉川 「だから欲とかは旅によって浄化されたというか、人間的成長をしたから。欲しいものはそこにある願いなんかじゃなく、この旅の行程だったんだ。そして今生きているこの瞬間こそが大切なものだと知った」


魔神 「言ってることは立派そうなんだけど。もう一度願い聞いていい?」


吉川 「ネットで気に食わない意見を探し出して文句言ってるやつら、全員クソみたいな人生を送るようにしてくれ!」


魔神 「なんで? なんでその悪意だけ浄化されずに残ったの? すべての欲とかが綺麗になって残されたが最悪の思想じゃん」


吉川 「どうせだからあいつらみんな地べたを這いずり回って己の行いを後悔しながら生きてくれ!」


魔神 「どうせだからで願うにしては強火すぎるんだよ!」


吉川 「惨めに末永く生きて欲しい。すっぱり殺してしまうと反省しないから」


魔神 「その悪意だけを抱えてこの困難な道を辿ってきたの?」


吉川 「できないの?」


魔神 「いや、できなくはないけど。我もこれまで人の様々な欲望を見てきたけど。なんかもうちょっと可愛げがあるというか。金とか権力とか、どこか愚かさのあるシンプルなものばっかりだったから」


吉川 「個人の欲望よりも善き世界のあり方を考えてるんで」


魔神 「本当にそれでよくなる? 個人的な感情が強すぎない?」


吉川 「なんでいちいちつっかかってくるの? あれ、ひょっとしてお前あっち側?」


魔神 「あっち側ってなに!? 魔神は魔神だからあっちもこっちもないよ!」


吉川 「じゃあやってよ。そういう約束でしょ?」


魔神 「やるのはいいけど、普通もっとさ、自分で力を持って実行すればよくない? それを願わない? 金とか権力とかで」


吉川 「やたら金や権力を推してくるな。なんなんだ? 土建屋と癒着してる政治家か?」


魔神 「そんなわけじゃないけど。これをやったところでお前は何も変わらないわけだよね?」


吉川 「だいたいそういうのは決まってるから。変に自分のことを願ったりすると痛い目見るって知ってるから」


魔神 「だったら世界平和とかでいいじゃん!」


吉川 「そんなぼんやりしたの叶ったところで実感がないだろ。惨めなやつ見てほくそ笑みたいじゃん」


魔神 「欲はないとか言ってるくせに人間的には異常に小ささを感じるんだよな」


吉川 「はーやーくー!」


魔神 「わかったよ! では叶えよう。ええいっ!」


吉川 「へっへっへ。さっそくネットをチェックするか。おや? 何も変わってない」


魔神 「まぁ、そういうやつらはだいたい元から十分惨めだったんじゃないの? そこから落ちないくらい」


吉川 「なんだよぉ! しょうがない。じゃ、二つ目の願い」


魔神 「よかろう」


吉川 「俺をこの惨めな生活から救ってくれ!」


魔神 「お前もそうだったのかよ!」


吉川 「三つ目は金! 使い切れないだけの! 非課税で!」


魔神 「欲もしっかり残ってる!」



暗転

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