言葉遣い

吉川 「そうですね、藤村さんは少し言葉遣いが乱暴だとクレームが来てます」


藤村 「うへっ、マジっスか? これでもちゃんと気をつけてやってんスけど」


吉川 「ダメですね。マジですかは敬語ではありません」


藤村 「マジですかじゃなくて、マジっスかなんスけど。え、じゃあなんだろ? 友達同士だと『デジマ?』とか言うんすけど」


吉川 「それはもう意味もわからない。お客様の前でマジは問題があります。当店は高級さをウリにしておりますから」


藤村 「本気ですか? でいいっすかね?」


吉川 「言葉の選び方がそもそもおかしい気がします。お客様に対して本気ですかって聞かないでください」


藤村 「でもリアクションする時どうすればいいんスか?」


吉川 「無理にリアクションとらなくも結構です。微笑でも浮かべていてください」


藤村 「マジっすか。いや、違うわ。えへへ、へへへ」


吉川 「それは微笑ではないですね。嘲笑のように思えます」


藤村 「ちょっとわかんないス。これが俺の限界なんで」


吉川 「言葉遣いなどは基礎的なものですから、覚えてしまえばあとは楽なのですが」


藤村 「ウス、覚えるっス」


吉川 「ではまず、かしこまりました」


藤村 「かしこまり!」


吉川 「ました!」


藤村 「ん? ましたってどういう意味ッスか?」


吉川 「ました、じゃなくて。かしこまりました」


藤村 「かしこまりで通じるっスよ」


吉川 「通じる通じないの話ではないので。かしこまりました。リピートアフタミー」


藤村 「リピータフマミー!」


吉川 「違う。そこじゃない。リピートアフタミーは、同じことを続けていってくださいという意味です」


藤村 「同じことを続けていってください? それどこで使うんスか?」


吉川 「そこはいいんです。かしこまりましたを私に続いて言ってください」


藤村 「かしこまりました」


吉川 「そうです」


藤村 「そんなにかしこまらない時のOKはなんていうんスか?」


吉川 「OKは全部かしこまりましたで」


藤村 「そうじゃなくて、かしこまらない時。かしこまりませんでいいスか?」


吉川 「良くはないです。かしこまりましたと答えてください」


藤村 「でもほら、相手から死ねって言われたら?」


吉川 「その場合は他の人や私に相談してください。普通ありえません」


藤村 「マジっスか?」


吉川 「はい。あとすみませんじゃなくて、恐れ入ります」


藤村 「すみませんじゃなくて、恐れ入ります」


吉川 「すみませんじゃなくてはなくていいです。恐れ入ります単品で」


藤村 「ちょっと長いっス。無理っス」


吉川 「恐れ入ります」


藤村 「恐れ入ります。これ恐れてない時はどうするんスか?」


吉川 「恐れてなくても使います」


藤村 「え、正直ナメてる相手でも?」


吉川 「お客様をナメない!」


藤村 「お客様をナメない」


吉川 「それは言わなくていいです。ナメないと心がけてください」


藤村 「ウッス。他は?」


吉川 「あとはおいおいやっていきましょう」


藤村 「おいおいやっていきましょう!」


吉川 「それは違います。とりあえず今日は、かしこまりましたと恐れ入りますの二つだけで」


藤村 「かしこまりました」


吉川 「お、できてるじゃないですか」


藤村 「恐れ入ります」


吉川 「覚えがいいですね。素晴らしい」


藤村 「リピータフマミー」


吉川 「それは使いこなさないでください」



暗転

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