リアクション

吉川 「免許取ろうと思ってさ、教習所通い始めたんだよ」


藤村 「ウッソ!? まじで!? 大丈夫なの、それ?」


吉川 「え。大丈夫だけど。普通の公認のやつだし」


藤村 「いやいやいやいや。そういうのが意外と危ないんだよ? 真面目そうなのがヤバいんだから」


吉川 「ヤバいって何が? まぁ、まだ始まったばかりだからさ」


藤村 「それなぁ。まぁ、周りがなんと言おうと止められないんだろうけどさ。後で泣くのは自分なんだから」


吉川 「なんで? 泣かないでしょ。何度も落ちて期限が切れたりしない限り」


藤村 「相手の方はどんな感じなの?」


吉川 「相手って、教官? 別に、普通に優しかったよ」


藤村 「そりゃそうだよ! 相手だって後ろめたいって思ってるんだから。優しくもなるよ。それを本当の優しさだと勘違いしてコロッといっちゃうんだよね」


吉川 「後ろめたくはないでしょ。仕事でしてるんだから」


藤村 「そういうことだよ。奥さんには仕事だって言ってるんだよ? でもそうやって家庭を壊してるんだから。痛い目を見ないうちに手を引いたほうがいいよ?」


吉川 「浮気のリアクションだな! さっきから! なんで!? 浮気の話はしてないよ?」


藤村 「俺はしてるよ?」


吉川 「お前はしてるかもしれないけど、俺は教習所の話したいんだから。浮気の話としてリアクションしないでよ」


藤村 「でも浮気の話の方が面白くない? 人間って他人の浮気に対してどうこういう時が最も幸福なはずじゃん?」


吉川 「偏った意見! そんな個人的な見解を正解みたいに断言しないでよ」


藤村 「浮気じゃない話の方がいいの? 逆になんで?」


吉川 「逆にじゃないよ! 浮気の話はしてないからだよ!」


藤村 「そっか。じゃ、浮気の話はやめるわ」


吉川 「やめてよ。教習所の話なんだから。で、実際に車に乗るんだけどさ。乗る前に前後とかタイヤとかミラーとか確認するターンがあるじゃない? あんなの、実際に車に乗る人でやってるの見たことないよな?」


藤村 「やっぱり? あんなのよくやるよな?」


吉川 「うん。ああいうのって教習所だけでやる仕草なのかな? 本当は普段からやった方がいいのかもしれないけど形骸化してるよな」


藤村 「なんていうか、むしろ可哀想だよな? そこまでして注目を浴びたいのかってさ」


吉川 「注目? まぁ、注目したほうがいいっていう理屈はわかるよ? でも毎回毎回は見ないよな」


藤村 「結局仲間内での承認みたいなのを求め過ぎなんだよな。だから小さなウケを狙うために過激なことをして、それが広まって大変なことになるなんて想像もしてないんだよ」


吉川 「飲食店で迷惑行為をして炎上する少年のリアクション! なんで一方的に自分のしたいリアクションで返すんだよ」


藤村 「だって人間って飲食店で迷惑行為をして炎上したやつの話をするのが二番目に幸せだから」


吉川 「最悪のワンツーフィニッシュだな。もっと楽しい話題あるだろ」


藤村 「もっと?」


吉川 「ないか。話題の在庫の中になかったか? 炎上や浮気以外のコンテンツは」


藤村 「今のところはないかも」


吉川 「教習所の話のリアクションっていうのはないの? その手持ちの中で」


藤村 「それは面白くないから」


吉川 「悪かったな! 面白くなるかもしれないだろ、これから。そんなに自信はないけど。テーマだけで面白さを判断するなよ」


藤村 「わかった。運転のリアクションね」


吉川 「そうやって先にリアクションの方向性を決められても困惑してしまうが」


藤村 「で? で? どうなったの、その初運転」


吉川 「まだ路上には出てないからコース内を走っただけだけどね」


藤村 「おうっ!? それでそれで? 早く、続き!」


吉川 「いや、ないよ? そんな盛り上がるエピソードになってないから」


藤村 「いやあるはず! よく考えて! さぁ!」


吉川 「予約は取ったからさ、次は坂道発進とかするらしいんだよね。難しいって言われてる」


藤村 「たまんねえな! それから?」


吉川 「終わりだけど」


藤村 「終わるわけねえだろ! 話せよ! もっと! おら!」


吉川 「リアクションが煽り運転!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る