ギネス

藤村 「俺は本気ですから! これでギネスを狙ってるんです!」


吉川 「狙うのは自由だけど、それはギネスに認定されるようなものなの?」


藤村 「それはちゃんと調べました。結構変なやつでも登録されてるんです。Tシャツを重ね着するとか」


吉川 「しょうもない。それでギネスに登録されて嬉しいかね」


藤村 「嬉しいに決まってるじゃないですか。人間誰しも一度は憧れるのがギネス記録ですよ」


吉川 「いや? 俺は憧れてないけど」


藤村 「まだなんですか? 遅れてるぅ~」


吉川 「早いか遅いかじゃないだろ。いずれは憧れるみたいに言うなよ」


藤村 「この挑戦のために一昨日から全てをなげうって打ち込んできました」


吉川 「一昨日から。短い。その短期間じゃ全てって言わないだろ」


藤村 「洗濯もしてません!」


吉川 「普通だよ。一人暮らしなら二日くらい洗濯しないことはあるよ」


藤村 「とにかく! 俺はこの『あっちらこっちらヒゲチョビレ』を一分間に何回できるかにすべてを賭けます!」


吉川 「そもそもなんなの? そのあっちこっちっての」


藤村 「『あっちらこっちらヒゲチョビレ』です。オリジナルの一発ギャグ」


吉川 「知らないよ。え? 芸人なの?」


藤村 「違います。でも一般人の中では比較的陽気な方です」


吉川 「一般人がオリジナルの一発ギャグなんて普通持たないだろ」


藤村 「比較的陽気なので」


吉川 「なんだよ、比較的陽気って。その理由でまかり通ることか?」


藤村 「なんとかこれでギネスを!」


吉川 「もっと人口に膾炙されてるギャグじゃないとダメなんじゃないの? 知らないもん、それがどれほどのものか」


藤村 「まじっすか? 遅れてるぅ~」


吉川 「時間の問題じゃないだろ! ずっと知らないよ! 将来も知る機会はないだろ!」


藤村 「ただやってるところを見れば凄さわかると思うんで。一分間計っててもらえます?」


吉川 「一分間か。計るくらいならいいけど。ギネスだろ? 相当すごくないと無理だよ」


藤村 「こっちは準備OKです。いつでもどうぞ」


吉川 「こっちスタートでやるのね? じゃあいくよ。よーい、スタート!」


藤村 「ふぅわぁあああ! ほぉおおおおおお! はぁぁっぁあああああ! あっちらこっちらヒゲチョビレーーー! ……はぁ、はぁ、はぁ」


吉川 「一個に凄い時間かかるじゃん。なんだよその事前の気合貯めみたいの。それ必要なのか?」


藤村 「はぁ……はぁ……はぁ……」


吉川 「おい、息切らしてるけどタイマー進んでるぞ。早くやれよ」


藤村 「はぁ……はぁ……。うぉおおおお!」


吉川 「あ、一分です」


藤村 「一回かぁ」


吉川 「無理だよ! ギネスで一回は無理だよ!? 一分間に一回しかできないものを、よく一分間に何回できるかの記録として挑んだな?」


藤村 「でも今日は調子が良かったから一回いけたんで」


吉川 「いけないこともあるの!? 一分で? 気合をためるターンだけで終わることあるんだ」


藤村 「でも他にできる人もいないと思うんで」


吉川 「できるだろ! やろうとしてないだけで。その一発ギャグを知らないから。知ったら最後、もっと早口で連発できるだろ」


藤村 「でもそれじゃ『あっちらこっちらヒゲチョビレ』の魂が死んじゃうんで」


吉川 「それはお前のさじ加減だろ! その魂を大切に思ってるの世界でお前しかいないからね」


藤村 「じゃあしょうがないですね」


吉川 「諦めるか。さすがにギネスは」


藤村 「今度はルービック・キューブを持ったまま『あっちらこっちらヒゲチョビレ』をやるので狙おうと思います」


吉川 「別に誰もやろうとしてないことを狙う記録じゃないんだよ!」



暗転

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