ぺてんし

結構です

吉川　「なるほど。確かにお疑いになる方は多いですね」

藤村　「そうなんです。いわゆる達人の方々の映像を見るとですね、どうもちょっと嘘っぽいというか」

吉川　「はいはい」

藤村　「失礼だとは思うんですが、あんな風に人が吹っ飛ぶかなと思っちゃいまして」

吉川　「あれはインチキでやってるんじゃないかと？」

藤村　「本当、失礼だとは思うんですが」

吉川　「まぁ、よく言われますからね。どうせ弟子なんだから言い含めてあるんだろというようなことは」

藤村　「でもあれは嘘とかではなく、実際にそうなってしまうものだと？」

吉川　「そうですね。まぁ、こうして口で説明しても伝わらないと思いますから一回試してみましょうか」

藤村　「それは結構です」

吉川　「え？」

藤村　「でもあれは怪しいんじゃないかっていう人はやっぱり多いですよね」

吉川　「なので試してもらえば一発なんで」

藤村　「それはいいです」

吉川　「いいです！？　いいですってなんですか？　だってそのために呼んだんじゃないんですか？」

藤村　「実際に本当なのかなって思いまして」

吉川　「じゃあやってみましょうよ」

藤村　「いいですいいです」

吉川　「いいですってなんだよ！　信じてないんでしょ？」

藤村　「信じないっていうか、０から１００でいえば２０くらい信じてます」

吉川　「８割嘘だと思ってるんじゃねえか。いいよ。やってみればわかるから」

藤村　「嫌です」

吉川　「嫌です！？」

藤村　「投げられるのは嫌です」

吉川　「そりゃ嫌だろうよ。でも試さなきゃわからないでしょ？」

藤村　「暴力反対なんで」

吉川　「暴力じゃないよ！　こういう技術だから！　達人の！」

藤村　「口で上手いこと言っても、最後には暴力に訴えかけてくるので」

吉川　「暴力って言うなよ。技を。道場内でそうやってやる分には稽古のうちだから」

藤村　「そうやって何人の人を傷物にしてきたんですか？」

吉川　「傷物って言うなよ！　怪我だって気をつけてやってるよ」

藤村　「いいですいいです。あんまりその勢いで来られるのも怖いんで」

吉川　「だってあなた信じないって言ってるんでしょ？」

藤村　「はい」

吉川　「じゃあ信じるために試してみなさいって言ってるの。安全にやるから」

藤村　「それはいいです」

吉川　「いいですって何だよ！　この展開でやらないってことあるのかよ！？」

藤村　「今回は御縁がなかったということで」

吉川　「御縁でやってるものじゃないんだよ。だってこのままやらないで終わったら、インチキだって言う風評を払拭できないわけでしょ？」

藤村　「そうですね」

吉川　「それはこっちにとっては痛手だもん。やれよ。せめて体験して否定だけはしてくれよ」

藤村　「あんまりそういう気にならないですね」

吉川　「お前の気は知らないんだよ！　こっちは言い掛かりつけられてるようなもんなんだから」

藤村　「なんでもそうやって暴力で解決しようっていう姿勢が良くないと思うんです」

吉川　「暴力で解決じゃないでしょ？　疑わしいって言われてるから、こっちはきちんと釈明しようとしてるんじゃないか」

藤村　「口で説明してくれればわかるんで」

吉川　「わかってないんだろ？　だから疑ってるんだろ？」

藤村　「でも、結構です」

吉川　「結構ですじゃないんだよ！　やらせろよ！」

藤村　「嫌です。やめてください」

吉川　「やらせろ！　ちょっとだけだから！　絶対に痛くしないから！」

藤村　「誰か！　誰か助けてー！」

笹咲　「おい！　お前何やってるんだ！？」

吉川　「あ、違うんです。そういうのじゃなくて。ちゃんと一から説明しますから！」

笹咲　「それは結構です」

吉川　「何でだよ！？」

暗転