ボーリング

藤村 「なんかボーリングも久しぶりだから緊張するな」


吉川 「前は結構やってたんですか?」


藤村 「やってた。結構やってたよ。右手の太さと左手の太さが明らかに違うくらいやってたから」


吉川 「えー! それはすごいやってたじゃないですか」


藤村 「そうなんだよ。もう右手だけ自分の意志を持って動き出すくらいやってたから」


吉川 「なんですか、それ。気持ち悪い。そんな風にはならないでしょ」


藤村 「鍛えられてたから。右手でりんごを持ったら握りつぶせるくらいだったよ」


吉川 「それはすごい握力!」


藤村 「逆に左手でりんごを持ったらウサギちゃんになったからね」


吉川 「そんな風にはならないでしょ。なんで持っただけでウサギちゃんになっちゃうの? それは特殊能力じゃないですか」


藤村 「そのくらいの時にテーブルマジックやるレストランに行ってさ、コインを右手で持ってくださいって言われたのよ」


吉川 「ええ」


藤村 「で、こっちはボウリングで右手が太くなってるし自信があるから、ギューって握ったのね。そしたらさ、コインがマジシャンの方に移動してるの!」


吉川 「それはマジシャンの力でしょ。別にボウリングの経験が活かされてできた話じゃないですよ」


藤村 「そのくらいやってたって話」


吉川 「え、でもどのくらいぶりですか?」


藤村 「えっとね。かれこれ15年以上はやってない。下手すると15年と10日以上やってない」


吉川 「刻むなぁ。15年と20日はいってないんだ?」


藤村 「わからない。だってボウリング記念日の短歌詠んでないから」


吉川 「普通読まないですからね。記念日ごとに短歌詠まないし。俵万智ですらサラダ記念日以外は詠んでないと思う」


藤村 「久しぶりすぎて忘れちゃったなぁ。これ右足から踏み出すんだっけ?」


吉川 「足はそれぞれじゃないですか? 自分のやりやすい方で。ボクは右ですけど」


藤村 「俺ってどう? 右が似合うかな?」


吉川 「それは自分の判断でやってくださいよ。似合う似合わないじゃないでしょ」


藤村 「あれ? そういえば家を出る時って右足だっけ?」


吉川 「知らないですよ。急にそんな個人のジンクスみたいの聞かれたって」


藤村 「ちょっと待って。こう、こう、こうでボールを投げるから。家出る時は右だわ」


吉川 「そこから逆算したの!? 道のり遠すぎない? 家からボーリングのリリースまで歩順を気にしてきてないでしょ」


藤村 「いや、でも久しぶりだとなんか色々変わってるね。昔なんてさ、ボールは恐竜の卵だったからね」


吉川 「昔過ぎない? ボーリングよりも先に人類としてやらなきゃいけないこと山積みでしょ」


藤村 「化石だよ? 恐竜の卵って言っても。まさか本当の卵なわけ無いじゃん」


吉川 「いやいや、化石だったとしても、ボーリングにそんな歴史ないですよ。この時代のボーリングは恐竜の卵の化石を使ってましたなんて、偽史じゃないですか」


藤村 「ごめんごめん。穴を掘る方のボーリングと間違えたわ」


吉川 「ない! それは間違えない! 流れからして間違えようがないし取ってつけたダウト!」


藤村 「そのくらい久しぶりって意味だよ」


吉川 「その意味は全然わかりませんけど」


藤村 「あれ? 今のボーリングの玉って穴3つなんだ?」


吉川 「前からでしょ。変わってないと思いますけど?」


藤村 「俺がやってた時は7個あったな」


吉川 「どの指!? 5本全部入れても余る! どういうフォームで投げるの?」


藤村 「あれ? 記憶違いかな? 7個あったのは星か」


吉川 「ポッポルンガ プピリットパロ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る