露出

藤村 「全く、露出狂だなんていい年こいて、恥ずかしくないのか!」


吉川 「すみません」


藤村 「すみませんじゃないよ。恥ずかしくないのかって聞いてるんだ!」


吉川 「恥ずかしいです。でもそれがたまらないというか」


藤村 「そんなことは聞いてないんだよ!」


吉川 「すみません」


藤村 「で? どうたまらないんだ?」


吉川 「あ、興味あります?」


藤村 「興味はないよ! でもこっちだって報告書を書かなきゃいけないんだから!」


吉川 「はい、すみません」


藤村 「で?」


吉川 「なんていうか、恥ずかしい、死んでしまいたい、と思うと身体がカーっと熱くなってきて、もう何も考えられなくなっちゃうんです」


藤村 「ったく! わけのわからないことを。それで、その格好は家から?」


吉川 「いいえ。途中で着替えて」


藤村 「どこで?」


吉川 「トイレなんですけど、もう靴とコートだけで」


藤村 「靴とコートだけ? 靴下は?」


吉川 「靴下はなしです」


藤村 「靴下なしで。靴はそれ革靴じゃないか?」


吉川 「はい」


藤村 「革靴を直だと靴擦れするだろ! あんまり走れないし」


吉川 「あ、いや。そんな長距離移動しないので」


藤村 「いざ逃げるとなったら走れる靴のほうがよくないか? そんなんだからこうやって捕まるんだよ」


吉川 「はい」


藤村 「俺だったら絶対靴下にスニーカーでやるけどな」


吉川 「あの、興味あるんですか?」


藤村 「あるわけないだろ! バカを言うな」


吉川 「あ、はい。すみません」


藤村 「で、それ毛は?」


吉川 「はい?」


藤村 「毛。体毛。それはどうやってるの?」


吉川 「あ、これは脱毛で」


藤村 「脱毛? 痛いやつか?」


吉川 「いや、痛さはないです。結構寝てる間に終わってるくらい」


藤村 「そんなところあるの?」


吉川 「興味ありますか?」


藤村 「興味なんてあるわけないだろ! こっちだって好きで聞いてるわけじゃないんだよ! 報告書を書く方の身にもなってくれよ」


吉川 「すみません」


藤村 「で、いくらくらいかかるの?」


吉川 「何がですか?」


藤村 「その、脱毛だよ。穢らわしい、何度も言わせるな」


吉川 「あ、はい。すみません。えーと普段なら3万円くらいですけど割とキャンペーンもやってるんで自分はもう少し安くやってます」


藤村 「どんなキャンペーンがあるんだ?」


吉川 「えっと、例えば私が紹介すれば、初回は8割オフになります。ついでに私にも割引が適用されますし」


藤村 「8割? でもそれ何回もやらなきゃいけないんだろ?」


吉川 「はい。でも例えばその月に何回でも料金が一律っていうコースもありますし。興味あります?」


藤村 「いい加減にしてくれないか? 露出狂と一緒にするなよ!」


吉川 「すみません」


藤村 「そのキャンペーンていうのは具体的にどうすればいいの?」


吉川 「え、具体的にですか? あの、招待しましょうか?」


藤村 「とりあえず、招待だけはされてみるか。しかし露出なんて夏場とかどうするんだ?」


吉川 「なので夏場のすごく暑い時なんかは無理なんで。もう本当にシーズンオフになります」


藤村 「そうだよな。寒すぎてもダメだろ?」


吉川 「でも都内ならいけますよ? というか地方でやったことないんでわかりませんけど。結局人がいないと意味がないんで」


藤村 「人はいすぎてもダメなんだろ?」


吉川 「そうですそうです! 相手が一人だからこそ成立するんです。人間って集団になると気も大きくなりますし、なんというか感性が雑になるんですよ」


藤村 「異物に対するリアクションという純粋な個人の感性のに他者の視線が入り込むとよくないというわけか」


吉川 「あの、やっぱり興味あります?」


藤村 「ふざけるなよ? 興味なんてあるわけないだろ! 俺はこうしてお前みたいな変態の思考をトレースして脳内で最適なシチュエーションも何度も何度も繰り返すだけで十分絶頂に達せれるんだよ!」


吉川 「上位の存在だったのか」



暗転

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