合宿

藤村 「あの、なんだっけ? 笹咲がさ、免許とるから合宿行くって言ってたやつ。あれ意味わからなかったよな」


吉川 「あー、言ってたけど、なんで?」


藤村 「だって合宿だよ?」


吉川 「うん、合宿行く人もいるでしょ」


藤村 「免許とるのに?」


吉川 「そうだよ? 合宿で免許とるってそんなに珍しくないよ? 俺の友達にもいるもん」


藤村 「え? 滝に打たれたりするの?」


吉川 「お前の合宿のイメージが偏ってるだけだよ。そんなことはしないよ。免許を取る勉強だけするの」


藤村 「なるほど。そんな普通のこと?」


吉川 「普通のことだよ。俺はやってないけど、驚くほど珍しくはない」


藤村 「そうだったんだ。合宿って聞いたから部活のイメージしかなかった」


吉川 「そっか。知らないとそんな風に思うんだ? 要するに教習所と宿泊と共同生活がセットになったパッケージみたいなもんだよ」


藤村 「なぁんだ。じゃあ鼻フックで10kgの錘を引き上げたり、洗濯バサミ乳首相撲トーナメントとかやったりするわけじゃないんだ」


吉川 「待って! なにそれ? 何の合宿?」


藤村 「そういうのじゃないんでしょ? 免許を取るだけで」


吉川 「そういうのがわからない。そういう合宿ってなんだよ。乳首相撲があるのって」


藤村 「だから! その話はもういいでしょ。俺が世間知らずだったってだけで。みんなは知ってるけど俺だけ知らなかった。もう恥ずかしいから言うなよ」


吉川 「違うよ。その事は言ってない。合宿免許を知らなかったことを掘り下げてるんじゃないんだよ」


藤村 「しつこいな。そんなに言われる筋合いある? 誰だって知らないことくらいあるだろ! お前はないのかよ、知らないこと」


吉川 「まさにいま知らないことが湧き出たばっかりなんだけど。全然知らない合宿の形態が」


藤村 「バカにしてるだろ? 物を知らないバカには何を言ってもいいと思ってるだろ!?」


吉川 「違うよ。本当に未知のワードが出てきたから驚いただけで。わかった。ゴメン」


藤村 「だいたいさ、免許を取るのに遠くに出かける意味なんてあるの?」


吉川 「まぁ、環境が変わった方がそのことに集中できるとかじゃないのかなぁ」


藤村 「ああいうのって、やむを得ず認められるものじゃないの?」


吉川 「なにが?」


藤村 「免許」


吉川 「やむを得ずではないよ。ちゃんと試験をして」


藤村 「そりゃ試験はするだろうけど。その時は本当に人を殺したりするの?」


吉川 「何を言ってるの? 何免許?」


藤村 「あれ? ひょっとしてまた俺ズレたこと言ってる?」


吉川 「その可能性あるな」


藤村 「殺人許可証的な何かじゃなくて?」


吉川 「違う。そんな免許ない。007とかしか持ってないやつ」


藤村 「他に免許なんてある?」


吉川 「あるよ! 主に自動車の運転だよ。合宿免許ってそれのためのものだから」


藤村 「あー! なるほど! 今わかった!」


吉川 「違うこと考えてたのか。殺しのライセンスの合宿だと思ってたの? さっきまで?」


藤村 「そりゃ鼻フックしないか」


吉川 「だからそれは何でするの!? 殺しのライセンスには鼻フック必要なの? そっち側の知識が一般人には全然ないんだけど」


藤村 「勘違いしてたから」


吉川 「いや、腑には落ちないけどな。それと勘違いしてたから乳首相撲だったのかってならないよ? どっちにしろわけわからないよ?」


藤村 「そもそも紛らわしいんだよな。誰だってそんなこと言われたら股間を綿毛で隠して粘着槍でソイヤソイヤするやつと勘違いしても仕方ないじゃない?」


吉川 「頼むからそっちの方を教えてくれよ! 俄然気になりすぎる!」



暗転

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