アキレスと亀

吉川 「まるでアキレスと亀のパラドックスだな」


藤村 「そのアキレスってのはアキレス腱のアキレス?」


吉川 「そう。アキレス腱でお馴染みのアキレス」


藤村 「あのアキレス腱の!? え? 人名なの? じゃあひょっとして上腕二頭筋も?」


吉川 「上腕二頭さんがいるわけじゃないよ? どう考えても人名じゃないだろ。アキレス腱っていうのは、アキレスの話から命名されたんだよ。説明いる?」


藤村 「いる。腱の説明もいる」


吉川 「腱は腱なんだけど。アキレスってのは神様と人間とのハーフで、子供の頃にお母さんが不死身になる川に浸けたおかげで不死身になったの」


藤村 「不死身になる川があるの!?」


吉川 「興味あっちこっちに飛んでくな。あるんだよ、そういう川が」


藤村 「ということは、女が溺れた言い伝えがあるために、水をかぶると女になる呪いがある温泉もあるってこと!?」


吉川 「呪泉郷だな、それは。それがあるのかは知らないよ」


藤村 「似たファンタジーじゃん。夢が広がるな」


吉川 「話戻していい? アキレスに。らんまの話はまた今度にして」


藤村 「アキレスの。不死身になる川で不死身になったわけだね」


吉川 「そう。ただお母さんがアキレスを川に浸けるために足をこう持って浸けたわけだよ。足首のところを握って」


藤村 「結構な虐待じゃない?」


吉川 「確かに結構な虐待なんだけど、お母さんも神様だし」


藤村 「時代がそういう時代だったんだ」


吉川 「時代は神話の時代だからね。なんでもありよ。殺したり殺されたりがあるんだから」


藤村 「足を持って川に浸けるくらいは、もう挨拶みたいなもんか。プレデターでもシュワルツェネッガーがやってたわ」


吉川 「そう、そういう時代だから。で、アキレスは不死身になって戦場で大活躍をしたんだけどでも一箇所だけ不死身じゃない場所があったの。それは川に浸かる時に母親が持っていた足首のところ」


藤村 「あー、上手いことマスキングみたいになって不死身成分が浸透しなかったってこと?」


吉川 「そういうこと! で、不死身だーっていってイキってたんだけど、その弱点じゃない足首のところを矢で射られて死んでしまったわけ。それから足首のあの部分をアキレス腱と呼ぶようになった」


藤村 「アキレス腱の部分は不死身じゃなかったんだよね?」


吉川 「そう。弱点だった」


藤村 「弱点? 不死身じゃないってことは普通の人間のアキレス腱と同じってことでしょ? 別に弱点じゃなくない? 我々はアキレス腱やられても別に死にはしないでしょ」


吉川 「まぁ、そうなんだけど! あくまで逸話だから」


藤村 「今の話から思いついたんだけどさ。呪泉郷の娘溺泉に入る時に、アキレスみたいに、ちんちんの部分を掴んで、こう浸かったとしたら……」


吉川 「何の話!? 新しい同人誌のネタを考えてるんじゃないんだよ!」


藤村 「でもアキレスの教訓を活かすとすればさ」


吉川 「そんな活かし方、アキレスも浮かばれないだろ!」


藤村 「でもほら、その状態で水をかぶるとさ」


吉川 「もういいんだよ! その妄想は後で一人でやってくれよ! アキレスと亀の話なんだよ!」


藤村 「あぁ、そっか。亀も出てくるんだ? それはシモネタ的な?」


吉川 「亀は亀だよ! あの爬虫類の、甲羅のある。足の遅いことで有名な」


藤村 「あの亀ね。シモネタじゃない方の」


吉川 「その亀が前にいて、アキレスが亀に追いつこうと全力で走る」


藤村 「そんなのすぐ追いつくだろ。別にアキレスじゃなくても」


吉川 「でも亀がスタートした地点にアキレスがたどり着いた時、亀はそのたどり着くまでの時間の分だけ前に進んでるんだよ」


藤村 「じゃあそこまでアキレスは走ればいいじゃん」


吉川 「うん。で、そこまでアキレスが走った時には、亀はその時間の分だけ前に進んでる」


藤村 「気を抜かずにアキレスはそこまで走りなさいよ」


吉川 「アキレスがさらにその亀のいた地点にたどり着くと、亀はやっぱりその時間の分だけ前に進んでる」


藤村 「一生追いつかないじゃん!」


吉川 「それがアキレスと亀のパラドックス」


藤村 「なるほど! つまりリボ払いの仕組みと一緒か」


吉川 「何聞いてた!?」



暗転

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