バレンタイン

良子 「甘いもの好きなんだっけ?」


吉川 「好きだよ。なんで?」


良子 「はい」


吉川 「え、これってひょっとして……」


良子 「や、違う違う! 全然そういうのじゃないから!」


吉川 「え、だってさ。これって……」


良子 「ホント、そういうのじゃないから!」


吉川 「開けていい?」


良子 「ここで!? なんか恥ずかしいな」


吉川 「うわぁ……。え、なにこれ?」


良子 「ティッシュ」


吉川 「ティッシュって。使ったあとのじゃん」


良子 「花粉がすごいから」


吉川 「え? ゴミを渡してきたの?」


良子 「だから恥ずかしいって言ったのに!」


吉川 「待ってよ。ゴミを? ゴミをこのタイミングで渡してきたの?」


良子 「タイミングに関しては花粉次第だから」


吉川 「いや、花粉次第じゃないだろ。そりゃティッシュのゴミが出るのは花粉次第だけど。なんで渡してくるの?」


良子 「そんなの花粉に聞いてよ。なんで花粉が出るのかこっちが聞きたいくらいだよ」


吉川 「そうじゃなくて。花粉で涙や鼻水がでるのはわかるよ。それはいいよ」


良子 「いいわけないじゃない!」


吉川 「あ。いいわけないけど。でもその問題じゃなくてさ」


良子 「そんなに文句言うなら最初から花粉なんて出さなきゃいいのに」


吉川 「俺が出してるわけじゃないよ? 花粉の責任まで背負わされる?」


良子 「もうっ! そんなこと言われたら渡せなくなっちゃう。せっかく用意してたのに」


吉川 「あ、え? 用意してくれてたの?」


良子 「はい」


吉川 「うわぁ……。ティッシュ! またティッシュのゴミ!」


良子 「またって言い方やだな」


吉川 「普通ダブルで来る? ティッシュのゴミをダブルでもらった時の適切なリアクションを知らないよ」


良子 「ダブルって、全然違うから! 最初のは左の鼻のやつで、今のは右の鼻から出たやつ」


吉川 「どの道汚い!」


良子 「汚いとか言わないでよ! 全部花粉のせいなんだから」


吉川 「花粉のせいかもしれないけど鼻水は汚いだろ」


良子 「サラサラのだから!」


吉川 「サラサラだから綺麗ってわけじゃないと思うよ? 鼻水の中で良いとか悪いとかの階級って特にないから」


良子 「そんなこと言ったらチョコだって汚いじゃん! ほぼうんこじゃん!」


吉川 「ほぼうんこじゃないよ!? それは全然違う。人間はチョコとうんこに関しては全く別の物とのして認識しましょうって文化を築いてきたんだから」


良子 「じゃあどううんこと違うのか説明してよ!」


吉川 「もうその説明がいるレベルの人とは話はできないよ? 違うものだから」


良子 「絶対? ティッシュにこびりついたちょっと溶けたチョコとかでも、美味しく食べられるわけ?」


吉川 「もうこの話はやめよう。なんか想像するだけで色々と失っていくから」


良子 「ティッシュにこびりついたサラサラの鼻水とだったら、どっちが綺麗なのよ!」


吉川 「どっちもゴミだよ。それはもう。ティッシュにこびりついた状態で価値を維持し続けられるものはないから。ティッシュっていうのはそういうものだから」


良子 「だったら今度はティッシュにこびりつかせないで生のまま渡すよ」


吉川 「いらないよ? 鼻水でしょ? なんで生のまま直送しようとしてるの? 俺の手で? それはプレゼントじゃなくて処理でしょ」


良子 「じゃあどうすればいいのよ!」


吉川 「本当にどうすればいいかわからない? 鼻水はティッシュで拭って自分で捨てる」


良子 「そんな複雑なことを急に言われてもできるわけないじゃない!」


吉川 「複雑なことは何も言ってないよ」


良子 「せっかく甘いもの好きだっていうからあげたのに! 文句ばっかり言わないでよ! 私はやりたいようにやって生きたいの! それで周りからチヤホヤされたいの!」


吉川 「なるほど、考えが甘い」



暗転

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