マーク

吉川 「そしてデザイン案として最終的に上がりましたのが、こちらになります」


会長 「ふむ」


吉川 「いかがでしょう? 我が社のシンボルマーク、ロゴと合わせて理念や社風を表してると好評なのですが」


会長 「好評? これが?」


吉川 「お気に召しませんか?」


会長 「それが我が社の新しいシンボルマーク? 新しいロゴと合わせて?」


吉川 「はい」


会長 「それ本気で考えたの?」


吉川 「何か問題がありますでしょうか?」


会長 「問題があるかどうかもわからないか?」


吉川 「あ、いや。役員会では全会一致で好ましいとされたのですが」


会長 「それ、一回ビキニの柄だったらどうだろう? って考えた?」


吉川 「ビキニ……ですか? え、ビキニっていうのは」


会長 「ビキニだよ。水着の」


吉川 「あの、ビキニですか? それが何か?」


会長 「それがなにかじゃないよ! シンボルマークというのは、ビキニで映えてこそだろうが!」


吉川 「おっしゃってることがよくわからないのですが」


会長 「例えば国旗あるだろ? ユニオンジャックとかトリコロールとか星条旗とか、もちろん日の丸とか」


吉川 「はい」


会長 「あれはビキニの柄としてどうかっていう視点でデザインされてるじゃないか」


吉川 「お言葉ですが、そういった経緯は初耳なのですが」


会長 「星条旗のビキニとか見てみろよ。やっぱり世界のアメリカだなっていう説得力があるだろ!」


吉川 「ビキニですか?」


会長 「日本は日の丸よりも日章旗がいいんだ。あれこそ日の出ずる国の矜持がビキニから溢れ出てるだろ?」


吉川 「そ、そうですか」


会長 「会社のシンボルだって同じだよ。まずビキニの柄としてどうか。その視点が欠けたデザインなんてパレオを巻いたままのビキニみたいなもんだよ!」


吉川 「それはダメという意味でしょうか?」


会長 「いいわけないだろ! パレオはパージしてこそパレオだろ!」


吉川 「ですが、国旗にしてもビキニの柄として使用する機会というのはごくごく限られているのではないでしょうか?」


会長 「だからこそ、ここ一番の国力が試されるんだろ?」


吉川 「試されてますかね? 弊社のシンボルマークがビキニなりますかね?」


会長 「キミは何もわかってないな。例えばソシャゲで夏が近づくと水着仕様のガチャが実装されるわけだよ。その時どうなる? シンボルマークをいかにビキニにあしらうかこそが肝心じゃないか」


吉川 「肝心ですかね? ソーシャルゲームの?」


会長 「こんなシンボルマークじゃ、いいとこSRだよ。我が社は常にURを目指してるんだから」


吉川 「ソーシャルゲームに弊社が関わってるのでしょうか?」


会長 「やってないけども。いつビキニになるかなんてわからないだろ? ビキニになるって事態になって慌ててシンボルマークを考えたって遅いじゃないか。事業というのはね、先の先を見越して判断していかなければならないのだよ」


吉川 「それはわかりますし、未来のことも考えているつもりですが。もしビキニになるとしても、その優先順位はそれほど高いものですかね?」


会長 「わしがこの会社を立ち上げたのは、ひとえにビキニになるためだぞ?」


吉川 「ええっ!? 初めて聞きましたけど」


会長 「そんなことは言うまでもないことだろ。この世のすべての会社は『利益を上げたい』と考えてるが、わざわざ言うか? 社是に『利益を上げたい』なんて。書くか? 当たり前だろ。そんなものは前提すぎて言うまでもないんだよ」


吉川 「はぁ」


会長 「ビキニも一緒だろうが? 誰だってビキニになりたいだろ?」


吉川 「え、一緒ですかね?」


会長 「逆にビキニになりたくないやつがいたら連れてこい。とにかくこの案は再考だな。ここの色合いもよくわからない」


吉川 「あ、そこは透過になってまして、下地の色がそのまま出る形になってるんですが」


会長 「なら採用!」



暗転

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