ホームルーム

藤村 「今日のホームルームだが、なんとうちのクラスの吉川が今年に入って3回目の表彰を受けた。吉川、前に」


吉川 「はい」


藤村 「今回は振り込め詐欺にあってる愚かな老人をすんでのところで止めたらしい。前回の溺れていたバカの人命救助といい素晴らしいことだ。みんな、拍手。じゃあ、吉川。クラスのみんなに一言いいか? 一度も表彰されたことのないクラスの者なんかと口を利きたくはないだろうけど、ここは一つ我慢してくれ」


吉川 「いや、別に嫌じゃないですから。我慢とかしてませんし」


藤村 「では吉川から一言」


吉川 「えー、改めて何か言うことはないんだけど、別にボクとしては表彰されたくてしたことじゃないし、当たり前のことをしただけなんだけど。皆さんも困ってる人がいたら声をかけるようにしたらいいと思います」


藤村 「ありがとう、吉川。みんな聞いたか? 相当上から目線のメッセージだったけども怒るなよ? たかが賞状もらったくらいで調子に乗ってると思うかもしれないけど、何ももらってないお前らよりは遥かに上だから」


吉川 「そんなことないです! 上から目線のつもりもなかった」


藤村 「吉川はそう言ってるけど、金輪際タメ口は禁止ってことでいいか、吉川?」


吉川 「いやいやいや! タメ口でいいです! 全然そういうつもりないし」


藤村 「聞いたか? タメ口もいいそうだ。これから吉川と話す時は寛大な心に感謝しながらタメ口で話すように」


吉川 「しなくていい! 感謝とかなく、フラットに話していいです」


藤村 「でもまぁ、さんはつけなきゃダメだよな? 呼び捨ては流石にダメだろ?」


吉川 「呼び捨てでいいですよ。同じクラスメイトだから」


藤村 「でも他のやつらは一度も表彰されてないんだぞ?」


吉川 「いいですよ。人の価値はそんなものじゃ決まらないでしょ」


藤村 「そうかそうか。人の価値ってのがあるか。じゃあどのランクからは呼び捨てOK?」


吉川 「ランクってなんですか?」


藤村 「ほら、クラスのヒエラルキーで。人気者ランクはOKとして、一般ランクも大丈夫か? いてもしょうがないランクと気持ち悪い奴らランクは絶対にダメだよな?」


吉川 「クラスにそんな序列作っちゃダメでしょ」


藤村 「俺が作ったわけじゃなく自然発生してるから。お前だって薄っすら認識してただろ?」


吉川 「だからといって先生が黙認しちゃまずいでしょ。そういうのなくさないと」


藤村 「……だとよ! よかったな、笹咲。お前はもう気持ち悪いランクじゃないぞ」


吉川 「名指しで! 言っちゃダメでしょ、先生が!」


藤村 「これからはみんなもランクみたいな考えはやめて、吉川とその他大勢にしか過ぎないことを重々自覚するように!」


吉川 「違います! そんな序列ない! ボクもクラスのみんなと一緒」


藤村 「でもそれじゃ、示しがつかないだろ?」


吉川 「示しって何!? たまたまボクがその場にいただけで他の人でも同じようにしたと思います」


藤村 「本当にそうか? はい、じゃあみんな目をつむれ! 自分も同じようにやったという人は手を挙げて」


吉川 「犯人探しみたいにやらないでよ! いいことなのに」


藤村 「はい、みんな目を開けろ。笹咲が手を挙げてたけどみんなどう思う?」


吉川 「言っちゃダメでしょ。なんのために目をつむらせたの!」


藤村 「笹咲、お前本気で言ってるのか? 絶対止めるんだな? どんなことがあっても? 絶対だな!?」


吉川 「すごい詰め方! 先生からこんな圧で詰められたらトラウマになる」


藤村 「これからも、このクラスの目標はみんなの和を大切にすることを目指していくから」


吉川 「まったく和が醸成される気がしない」


藤村 「今後とも、和を乱すような者がいたら今回のように吊し上げていくことにする」


吉川 「吊るし上げられてたの!? 最悪のクラス!」



暗転

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