ストリートスナップ

藤村 「こんにちは~」


吉川 「え、なんですか?」


藤村 「すみません、今ストリートスナップを撮ってないんですけども~」


吉川 「ストリートスナップ? あの、SNSとかにアップする?」


藤村 「そうですそうです。ご存知ですか?」


吉川 「や、見たことはありますけど。え、今やってるんですか?」


藤村 「はい。大丈夫そうですか?」


吉川 「え、でもボクが?」


藤村 「いいですかね?」


吉川 「いいですけど」


藤村 「ちなみに今何されてました?」


吉川 「普通に帰るところですけど」


藤村 「なるほどなるほど」


吉川 「いや、緊張するなぁ。これこのまま撮るんですか?」


藤村 「何がです?」


吉川 「ストリートスナップでしょ。撮るんでしょ?」


藤村 「撮りませんけど?」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「最初に声かけたじゃないですか」


吉川 「うん。え、今更ボクじゃダメってこと?」


藤村 「違います違います。え、何だと思ってます?」


吉川 「だからストリートスナップでしょ?」


藤村 「そうです。ストリートスナップを撮ってないんです」


吉川 「撮ってない? え? 撮ってるわけじゃないの?」


藤村 「撮ってません。ストリートスナップを撮ってないってことでお声掛けさせていただいたんですけど」


吉川 「意味がわからないよ。なに、撮ってないって」


藤村 「撮ってないんです」


吉川 「撮ってなかったら声掛けなくていいでしょ。何もしないんでしょ?」


藤村 「違います。ストリートスナップを撮ってないんです」


吉川 「何が違うんだよ! なんだよ、撮ってないって。撮ってないってことは何もしてないんだろ」


藤村 「何もしないんじゃないんです。ストリートスナップを撮ってないことをしてるんです」


吉川 「なんだよ、その何もないがあるみたいなしゃらくさい言い回しは!」


藤村 「なのでストリートスナップを撮らないということでお声掛けさせていただいたんですが」


吉川 「撮らないなら声をかけないんだよ、普通は。他の人もみんなストリートスナップを撮ってない人だよ。誰も他人に声かけて撮らないことを主張してないだろ!」


藤村 「いえ、でもあなたは特別声かけたくなったので」


吉川 「なんで? そんな声かけられてどうすればいいの?」


藤村 「ストリートスナップって本当にご存知ですか?」


吉川 「知ってるよ! あれだろ? 街ゆく格好いい人やおしゃれな人の写真を撮るやつだろ」


藤村 「知ってるじゃないですか。それの撮らないバージョンです」


吉川 「ないんだよ、撮らないバージョンなんてものは! 撮るからストリートスナップなんだよ!」


藤村 「いえ、違うんですよ。ストリートスナップは街で出会ったかわいい人や素敵な人を撮るわけじゃないですか? それの逆です」


吉川 「逆って何!? 逆とか正とかの概念あるの?」


藤村 「だから格好いいとかおしゃれとかと逆の人です」


吉川 「おい、待てよ」


藤村 「あなた特別光ってたので」


吉川 「なに? こいつ見た目がヒドいから、ストリートスナップなんて絶対撮らないぞと忠告しに来た感じ?」


藤村 「大体あってます」


吉川 「そんな失礼なことあるかよ! いいだろわざわざ言いに来なくて」


藤村 「でもそれを言ったらストリートスナップも同じこと言えるじゃないですか」


吉川 「同じことではないよ! 素敵ですねは伝えていいけど、最悪ですねは伝えちゃダメだろ。思ってても黙ってろよ」


藤村 「我慢できなかったんで、つい」


吉川 「そこまで!? 人を呼び止めてただ傷つけただけ?」


藤村 「傷つけるつもりはなかったんですけど。ただストリートスナップを撮らないと言いたくて」


吉川 「余計なお世話なんだよ! ない概念は実行しなくていいんだよ!」


藤村 「面目あります」


吉川 「そこは面目ないんだよ!」



暗転

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