コンプラ

勇者 「確かにここにたどり着いたのは俺たち五人だけだ。でも、俺たちはすべての人々の思いを背負ってここまで来たんだ! 負けるわけにはいかない」


魔王 「フハハハ……。ん? 五人? 六人いるように見えるが」


勇者 「この人は関係ない」


魔王 「関係ないってなんだよ! 関係ないやつがいるのおかしいだろ」


勇者 「この人はコンプライアンス監査員の人だ。別にお前は気にしなくていい」


魔王 「気にしなくていい人がいるのか? 世界の命運を賭けた戦いなのに?」


勇者 「別にこの人は戦いには加わらない。俺たちがコンプライアンスに違反してるかどうかをチェックする人だ」


魔王 「チェックしてる場合じゃないだろ、戦いなのに」


勇者 「その辺の事情はもう話してあるから。ちなみに俺たちのパーティがハラスメントなどを起こさないように監視してるだけで、魔王側は大目に見てくれるそうだ」


魔王 「大目に? なんかそっちの方が立場上みたいな感じになってるけど。この世界は今吾輩の支配下なんだけど」


勇者 「もちろんそうだけど、人間てのはその中でもルールを決めてやってるわけだから。で、いいんですよね?」


吉川 「はい。今のところ大丈夫です」


魔王 「気になるだろ! 普通関係ないやつ連れてこなくない? 遊びじゃないんだぞ」


勇者 「もちろんだ! この戦いですべてが決まる!」


魔王 「気が散らないか? そんなやつがいて」


勇者 「もう慣れた! お前の方こそ、今日でその悪逆非道な支配は終わりだ! 後悔しながら死ね!」


吉川 「あ、今のちょっと……」


勇者 「あ、はい。すみません。えっと、ションボリと反省しろ!」


魔王 「引っかかったの? 今の死ねみたいな発言が引っかかって言い直したの? そんなチョイチョイ注意してくるの?」


勇者 「いつもはこんなじゃないんだが、最終決戦だと思うとつい頭に血が上がってしまった」


魔王 「いいんだよ! 戦いなんだから、それで。注意してくる方がおかしいだろ」


勇者 「ここからは大丈夫だ! さぁ、来い!」


魔王 「そっちがいいならいくが。まずは小手調べの一撃だ、己の身の程を知れ!」


勇者 「ぐわぁ! クソォー!」


吉川 「あ、今のもちょっと……」


勇者 「すみません。悔しい! 痛くて悔しい!」


魔王 「何だよ、そのやり取り。いいだろ、クソくらい。言うだろ。あとその人が一番ダメージ少ないじゃねえか。なんでそんなに強いんだよ」


勇者 「コンプラ監査員だからだ」


魔王 「その理屈が飲み込めないんだけど? だったらそいつが世界を救いに来ればよくない?」


勇者 「コンプラの人は世界を救うとかには興味ないから。人に窮屈な思いをさせることしか考えてないからしかたないんだ」


魔王 「それは吾輩よりたち悪くないか? なんで従ってるの?」


勇者 「お前にはわからない! 人間の持つしがらみってやつは!」


魔王 「いや、希望とか心とかで説得しにきてくれよ。しがらみをそんな強めに言われても負ける気がしねえよ」


勇者 「今日こそお前を倒し、この支配から人類を解き放ってしがらみ溢れる世に変えてやる!」


魔王 「違うタイプの悪じゃん! 人類はそれを望んでるの?」


勇者 「ごく一部のものは大歓迎をしている!」


魔王 「なんかあまりにも支配が容易いなと思ったけど、人間側で相当問題抱えてたってこと?」


勇者 「そうだ! 俺たちはもう限界だ! 頼む……」


吉川 「あ、ちょっといいですか?」


勇者 「た、たすけ……」


僧侶 「魔王! 今日こそ私たち四人がこの世界をあなたの支配から開放してみせる!」


魔王 「おい、ちょっと! 一人いなくなったことにされてるぞ! あれ、いいのか? 仲間だろ?」


僧侶 「シーッ! 金輪際その話題には触れないで欲しい」


魔王 「怖えよ、人間……」



暗転

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