汚い話

藤村 「ちょっと汚い話なんだけどさ」


吉川 「うん、何?」


藤村 「この間検便したんだよね」


吉川 「ふぅん」


藤村 「健康診断で」


吉川 「で?」


藤村 「したんだよ」


吉川 「え? 終わり? それだけ?」


藤村 「健康診断で検便をしたんだ」


吉川 「それはわかったよ。そこから話が展開しないの?」


藤村 「別に」


吉川 「別にじゃないよ。するでしょ、普通」


藤村 「え、その後なにがあったの?」


吉川 「それは知らないよ。お前の事情だから。でも話がふくらまないで終わるの?」


藤村 「終わったね。まずかった?」


吉川 「汚い話っていうからさ。そういうのはその後面白くなるからこそ、導入の汚い話を受け入れられるっていうもんじゃないの? そこだけで終わったらただの嫌な報告じゃん」


藤村 「これはただの嫌な報告なんだけどさ」


吉川 「だったら聞かないよ! なんでそんな報告を受けなくちゃいけないんだよ。罰ゲームかよ」


藤村 「罰ゲームとして聞いてほしいんだけど、これは嫌な報告でさ」


吉川 「なんで!? なんの因果もなく罰ゲーム受けなきゃいけないの? 前世のカルマとか? 受けたくないよ、そんなの」


藤村 「その後の話だけど、一応流したし手も洗ってるよ?」


吉川 「それはわかってるよ。まさか流しもせず、洗もせず、汚さのピークの状態を維持してここにいるとは思ってないよ」


藤村 「だから一時期汚かったけども、結果的に持ち直した話っていえるかも」


吉川 「普通なんだよ。それはもう検便の話ですらない。ただお前の排泄の話だろ。何に対して盛り上がればいいんだよ?」


藤村 「そんなこと言ったらお前のパンを半額で買った話だって一緒だろ」


吉川 「確かにあれは盛り上がるほどのことではない日常の話ではあったけど、でも汚くはないじゃん」


藤村 「パンなんて菌が発酵したものなのに」


吉川 「汚くはないだろ! そんな観点でパンのことを見てるか?」


藤村 「検便だって健康上の検査に過ぎないわけだから」


吉川 「そうだけどさ。お前は本当に心から同じくらい汚くない話だと思えるのか?」


藤村 「今のはお前がそう言うからムキになって張り合っただけだよ。うんこはうんこだよ」


吉川 「だよな? 別に検便をしたって報告は俺に対してしなくてよかったんじゃない? 健康診断の結果が出たら、その結果に対して話題があるかもしれないし」


藤村 「でも検便なんてあんまりしないじゃん! パンを買う頻度で検便するやついるか? 日常に寄り添った検便なんてないだろ! そんな非日常の体験をしたからには言いたくなるじゃないか!」


吉川 「あー、なるほど。検便をしたというところが話題のピークなわけだな。だったらしょうがないか」


藤村 「今の検便てさ、なんか取ったやつを冷蔵庫に入れて冷やしておいてくださいとか書いてあるんだよ」


吉川 「あるじゃん! 展開! その話をさっきしろよ。検便から話が広がってきたじゃん」


藤村 「え? これでよかったの?」


吉川 「全然いいよ。したんだで終わるよりは全然マシだよ。こっちもリアクションしやすいし。なんか冷蔵庫に入れるの抵抗あるなーとか思うもん」


藤村 「なるほどね。抵抗あるんだ?」


吉川 「あるだろ。冷蔵庫って食材入れるものじゃん。一番遠い存在だろ? それを入れるかっていう」


藤村 「で?」


吉川 「で? だからその時の感情をふくらませてもいいしさ、スポーツ観戦でホームの応援ばっかりの中に一人だけアウェイの応援がいるみたいなたとえとかさ」


藤村 「ふくらむねぇ!」


吉川 「なんだったら間違えて食べそうになったりとか言う話も」


藤村 「うわー、それはさすがに引くわ」


吉川 「だからあくまで話の展開としてだよ」


藤村 「っていう話があったんだよ」


吉川 「全部自分の手柄にしたの!? やり口が汚ぇ!」



暗転

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