知恵と勇気

藤村 「だからといって諦めるのかよ!?」


吉川 「そんなこと言ったって」


藤村 「弱音か? お前、それでいいのかよ!」


吉川 「だからってどうしろって言うんだよ! こんな状況で!?」


藤村 「確かに俺たちにはなにもないよ。でもさ、まだ知恵と勇気があるじゃないか!」


吉川 「知恵と勇気……」


藤村 「そうだよ! それすら失ったら俺たちはもう終わりだぞ!」


吉川 「そうか。知恵と勇気があったか。でも大丈夫かな?」


藤村 「それはやってみなきゃわからないさ。だけどやる前から諦めてどうするんだよ!」


吉川 「だって聞いたことないもん、こんな局面を知恵と勇気でなんとかした話は」


藤村 「だからこそ、やってみなきゃ!」


吉川 「無理じゃないかなぁ」


藤村 「あのさ! 元はと言えばお前が財布忘れたのがいけないんだろ!?」


吉川 「そう言うけど、そっちは?」


藤村 「俺はだって今日はお前に任せる気でいたから」


吉川 「なんでそうなの? いつもさ。当たり前のように」


藤村 「いつもじゃないよ! この間は俺が払っただろ!」


吉川 「でもだからと言って今日も? 最初から金持ってきてないってのが納得いかないんだよ」


藤村 「その話だって、お前が財布を忘れなければ、あとでちゃんと払ったよ。差分を!」


吉川 「本当か? カードとかもない?」


藤村 「ないよ! 知恵と勇気以外はなにもないよ!」


吉川 「いけるかなぁ?」


藤村 「各種決済サービスに対応してるとは書いてあった」


吉川 「各種の中に知恵と勇気ある? そのカテゴリであってる?」


藤村 「あってるかどうかはわからない。でも俺たちにはもうそれしか残されてないんだから!」


吉川 「お前がスマホ忘れてこなきゃな」


藤村 「それはお互い様だから。お前は財布、俺はスマホを忘れた。それはもうどっちが悪いとかでもない。強いて言うならお前のスマホにおサイフ機能ついてないのが悪い」


吉川 「しょうがないじゃん、そんなの」


藤村 「でも俺たちには」


吉川 「知恵と勇気?」


藤村 「そうだ! それがある!」


吉川 「あるっちゃあるけど。まず言うのが恥ずかしいんだけど」


藤村 「それなんだよなぁ。知恵と勇気でって言う時点で勇気の大半使っちゃうから」


吉川 「そんなこと言われて店員さんも驚くだろうし」


藤村 「『は?』みたいなこと言われたら二度目を言う勇気はもう残ってない」


吉川 「だよな。ワンチャンで突破するしかないんだよ。厳しい戦いになるよ」


藤村 「どんな厳しい戦いだろうと、知恵と勇気で勝ち抜くしかないから」


吉川 「こういう場合に本当にいけるの? 知恵と勇気で」


藤村 「ダメで元々だろ!」


吉川 「そうだけどさ。無理な気はすごいするよ」


藤村 「ほら! 勇気が落ちてきてる。そこはもっと自分を騙せよ!」


吉川 「自分を騙すとかいい始めたら勇気ですらなくなるんだよ」


藤村 「自信を持っていこう。まるで財布を持ってるかのごとく」


吉川 「大した自信でもないけどな、それは」


店員 「ありがとうございまーす。お会計の方が2400円になります」


藤村 「知恵と勇気で」


吉川 「……」


店員 「はい、知恵と勇気で。ではこちらタッチお願いします」


藤村 「いけたー!」


吉川 「いけたな!」


   デデン!


店員 「あ、知恵の方が足りてないみたいですね」


藤村 「残高不足か」


吉川 「いけなかったわ」



暗転

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