早くね?

吉川 「これ見て。トランプタワー10段の写真! 一ヶ月もかかった」


藤村 「ええっ!? 早くね?」


吉川 「あ、うん。いや、早くはないかな。何度も崩れたし」


藤村 「まじすごい。早くね?」


吉川 「ん? まぁ、早さというか時間はかかったけど。そもそもできると思ってなかったから」


藤村 「でも早くね。すげぇな」


吉川 「いや、早さの前にさ。一ヶ月って言ってもずっとこれだけやってたわけじゃないし、もっと早い人だっているし」


藤村 「そっかそっか」


吉川 「まずはできるかできないかの評価軸で驚いて欲しいわけだよ、こっちとしては」


藤村 「あぁ、なるほど」


吉川 「そもそもできないことだからね? やってみ? 全然できないよ? 俺も何回も崩れたから」


藤村 「そうなんだ」


吉川 「そのできたことのすごさを飛ばして、時間の評価軸に行っちゃうのはよくない。次の段階だから、それは」


藤村 「そっか」


吉川 「正直、早さはそんなでもない。別にそこは気にしてなかったから。もうできることに集中してたから。早さでの評価があると知ってたらそこも意識しただろうけど。意識してないことを褒められても困る」


藤村 「すげぇ! 遅くね?」


吉川 「そうじゃないよ! 遅い方で評価しろって言ってるんじゃない。全然伝わってないな。確かに時間はかかったから遅い方だと思う。でもたとえ遅くてもできたことはすごくない?」


藤村 「なるほどね」


吉川 「なるほどね、じゃないよ! できたんだっていう感動が欲しいわけ。それを言ってくれたら一番満足なんだから」


藤村 「早くはないんだよね? その言い方は間違いなんだ?」


吉川 「早くはないよ! でもそんなに遅くもないよ!」


藤村 「すげぇじゃん! ちょうどよくね?」


吉川 「なんだよ、その褒め!? 何に対してちょうどいいんだよ。トランプタワーのちょうどよさってどこにあるんだよ?」


藤村 「ちょうど悪かった?」


吉川 「ちょうど悪いってなんだよ。ちょうどに対する良い悪いはあるの? ちょうど悪くてもできてるだけマシなんじゃないの?」


藤村 「ちょっとなんでそんなに怒ってるのかもよくわからない」


吉川 「そうか。わからないのか。そうだよな。一応褒めようとはしてくれたんだよな。ノーリアクションよりは全然いいよ。だけどなんかちょっとズレてた」


藤村 「ズレてたら最悪ってことか」


吉川 「いや、最悪とまでは言わない。なんか強い言い方になって悪かったな。でも早さを急に言い出すのもおかしかったじゃない? どれだけ時間かかるものか知りもしないのに」


藤村 「どれだけ時間かかるのかは知らなかった」


吉川 「でしょ? だったら早さを評価するのはおかしかったよね」


藤村 「そういうものなのか、わかってなかったから」


吉川 「わかってなかったか。トランプタワーって結構繊細で集中力がいるんだよ。途中で崩れたら台無しになっちゃうし。10段にいくにはトランプも3セット必要なんだから」


藤村 「へぇ、そんなにすごいことなんだ」


吉川 「そんなにすごいことなんだよ。わかってきた? すごさ」


藤村 「わかってきた。これ見て」


吉川 「なにそれ? あ、トランプタワーの写真? えぇっ!? すごいじゃん。10段以上ある」


藤村 「すごいんだね」


吉川 「お前が作ったの?」


藤村 「ううん。これうちのおじいちゃんがホームで作ったみたい」


吉川 「あぁ。おじいさんいくつくらい?」


藤村 「90とか言ってたかな」


吉川 「そっか。言い方はあってたけど、トランプタワーって別に老人の趣味ってわけじゃないからね」



暗転

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