相槌

藤村 「一年の中で雨の日ってどのくらいあるか知ってる?」


吉川 「考えたことなかったけど、だいたい三分の一くらいじゃない?」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、平均するとほぼ三分の一、もちろん地域によって割合は違うけど日本全国でいうとそのくらいなんだよね」


吉川 「まぁ、そんなもんじゃないかとは思ったけどね。なんか沖縄とか結構晴れてそう」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、雨が多いのは富山県や石川県の日本海側、比較的少ないのは瀬戸内海の辺り、沖縄も一年のうち雨の日は28%くらいでそこそこ晴れている方ではあるんだ」


吉川 「でもそれを言ったら北海道は?」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、北海道は40%近くで割と雨が多い。もちろん範囲が広いから地域によっても差は出るけども」


吉川 「東京は体感だと三分の一より多い気がする。梅雨とか鬱陶しいし」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、東京の雨の日の割合は31.5%くらいで平均よりも少ないくらいなんだ」


吉川 「ちょ、ちょ、ちょっと。いいかな? そうなんだよって相槌打つ割には、あんまりクリティカルに当たってなくない? 少ないんだ。俺は多いと思ったんだけど」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、東京、千葉、埼玉は少ない方なんだ」


吉川 「別に意外じゃなくない? なんかずっとその返しをしてるな」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、最初からずっとこの返しで話しているけど全然会話が破綻しないんだよ」


吉川 「いや、破綻とかじゃなくて。もう全部その返しで来るなら俺は何を答えてもいいよね?」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、相手が何を言ってもこれで返せるし、なんだったら割と会話弾んでくるんだよ」


吉川 「確かに、ちょっとノッてる自分がいたわ。そんな汎用性のある相槌あったんだ」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、この構文はまだ広く知れ渡ってないから、さり気なく使えばあらゆる会話を自然に盛り上げることができるんだ」


吉川 「全然さり気なく使ってないけどな。もうずっとそれだから。流石に気になる」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、この構文を使ってるとバレたあとでも更にそれを掘り下げることで一山盛り上がりを作り出すことができるんだよ」


吉川 「まんまと? 俺はまんまと乗せられたのか? 今その一山にのせられてる最中か」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、最初に強めの同意を置くことによってたとえ相手が訝しんでも気分を害することはないんだ」


吉川 「そうか? ちょっとやりすぎでナメられてる感でてきちゃってるけどな」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、ナメてるのは最初からやってたのにここにくるまでそのナメてる感を相手に察せられずに乗り切ることができてるんだよ」


吉川 「あ、ナメてたんだ。初手から。それは言わなきゃいいのに。もうなんか気分下がっちゃったよ」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、たとえ選択肢に失敗したとしても、それほど大きなダメージを受けることなく会話を続けることができるんだよ」


吉川 「じゃもういい! 何も話さない」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、相手が何も話さなかったとしても、この構文で相手を刺激することにより終始バカにするスタンスを崩すことなく話し続けることができるんだ」


吉川 「バカにしてた? あーそう! 途中から薄々感じてはいたけどな。メチャクチャ不愉快だけど?」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、相手が不愉快になったところでこの構文を使えばたちまち不快さを緩和することができ、なおかつ関係もこじれることがないんだよ」


吉川 「わかった。降参。もういい。やめてくれる?」


藤村 「そうなんだよ! 意外なことに、相手がどんなに嫌がろうとこの無敵の構文がある限り歩みを止めることはないんだよ」


吉川 「それって、俺が気の利くいい人だからじゃない?」


藤村 「それは違う」


吉川 「構文!」



暗転

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