発祥の地

吉川 「これって何ですか?」


藤村 「あれ? ご存知ない? ここ初めての人?」


吉川 「はい。偶然通りがかっただけで」


藤村 「あ、そう? 珍しい。だいたいここに来る人ってこれが目的だから」


吉川 「そうなんですか? これって……」


藤村 「ね。すごいでしょ?」


吉川 「何ですか?」


藤村 「石碑ですよ」


吉川 「それはそうだろうと思いましたけど、何の石碑なんですか?」


藤村 「発祥の地なんですよ」


吉川 「……何のです?」


藤村 「発祥の地のですね」


吉川 「いや、だから何の発祥の地なんですか?」


藤村 「発祥の地の発祥の地です」


吉川 「え、どういうことですか?」


藤村 「日本全国に、いや、世界でもかな様々な発祥の地がありますけど、その発祥の地の発祥の地です」


吉川 「発祥の地の!? その、発祥の地というコンセプトが生まれた場所ですか?」


藤村 「そうです。だから言ってみれば世界中の発祥の地というのは、ここの真似に過ぎなくてオリジナルではないですね」


吉川 「発祥の地に発祥の地があったんだ!」


藤村 「こう言っちゃ何だけど、他のところはよく発祥の地を名乗れるなって感じですよ。ここを見ちゃうとね。発祥したわけじゃないのに」


吉川 「いや、発祥はしてるんじゃないですか? その、何かの」


藤村 「でも発祥の地って言い出した時点で二次的なものだから。パクりなわけですよ」


吉川 「パクり……なのかなぁ?」


藤村 「例えばあなたがキン肉マンの超人を考えたとしますよね? で、それをオリジナル超人だ! って高らかに宣言しても、所詮ゆでたまごの手のひらの上なんですよ」


吉川 「すみません。キン肉マンってよくわからなくて」


藤村 「じゃあもう何の説明もできないや」


吉川 「あ、そうなんですか? キン肉マンがわからないと他に例えがないくらいの話?」


藤村 「キン肉マンすらわからない人にものを説明するって不可能でしょ」


吉川 「いやいや、そこまでキン肉マンって網羅してる? そんなアカシックレコードみたいなものなの、キン肉マンて」


藤村 「とにかくここが発祥の地だから」


吉川 「で、そもそもその発祥は何の発祥だったんですか?」


藤村 「だから発祥の地だよ」


吉川 「そうじゃなくて。最初の発祥の地をやった時は、何の発祥の地だったんですか?」


藤村 「発祥の地だよ」


吉川 「……通じないな。発祥の地というのは、何かが発祥した地なわけですよね?」


藤村 「発祥がね」


吉川 「発祥って、だって概念じゃないですか?」


藤村 「ここで発祥が生まれたから」


吉川 「概念が? 概念は場所に関係なく生まれるものじゃないですか?」


藤村 「そうかな? そんなこと言ったら平和って概念はエルサレムには……」


吉川 「おいおい! 急にやべぇこと言うな! やめておいてよ。言わないで、そんなこと!」


藤村 「ここで生まれたって伝わってるんだから。発祥が」


吉川 「誰か個人が思いついたってことですか? なんか残ってるんですか、そういうのが? 発祥の地というコンセプトで観光地化しようというアイデアを思いついたとか」


藤村 「言ってることがよくわからないな」


吉川 「わからなくないでしょ。今結構要点をまとめたつもりだけど」


藤村 「発祥の地は発祥の地だから! そう言われてるんだから!」


吉川 「なんか説得力もなくなってきちゃったな。みんながそう言い張ってるだけみたいな感じ」


藤村 「発祥の地ってのはそういうものだろ!」


吉川 「あ、そうなんだ。わかりました。ここは発祥の地の発祥の地として地元の人達から大切に思われてるってことですね」


藤村 「でね、この先120メートルくらいかな? 進んで、信号の手前の右側にちっちゃい碑があるから。それが終焉の地」


吉川 「120メートルですべて!?」



暗転

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