使うしかない

藤村 「クッ……! こうなったらもうアレを使うしかないか」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「言ってなかったな。実は俺には神魔族の血が流れている。それを開放すれば俺の意識は凄まじく覚醒しする。ただし、この世界がどうなるかわからないが……」


吉川 「え。そんな力を? 今?」


藤村 「もうこうするしかない!」


吉川 「しかないの? なんで?」


藤村 「他に方法があるかよ!?」


吉川 「……あるんじゃない? だってそんな力のこと想定してなかったもん」


藤村 「無理だよ。もう力を開放するしか」


吉川 「いやいや、待ってよ! だって俺たちゲームしてるだけだよ?」


藤村 「してるだけじゃない! レアアイテムが全然出ないじゃないか!」


吉川 「そうだよ? 全然でないね。あと一個集まれば合成できるのに。かれこれ30分もやってる」


藤村 「クッ……。もうダメだ。眠くなってきた。やはりアレを使うしか」


吉川 「待ってよ! なんだっけ? 神魔族? 別に使わなくてもいいでしょ」


藤村 「でももう相当眠い」


吉川 「眠いから使うの!? 眠気覚ましに? え、世界とかは?」


藤村 「まぁ、世界は無茶苦茶になるかもしれないけど」


吉川 「それはマズくない? 世界って無茶苦茶にしちゃダメでしょ」


藤村 「それはわかってるよ。だから今まで使わずに来たけど、もうここまで眠くなってきたらしゃーない」


吉川 「しゃーなくはないよ! いいよ、寝て」


藤村 「いや! レアドロ出るまで寝ない」


吉川 「あの、たかがゲームだよ?」


藤村 「そんなことはない。真剣に向き合ってる」


吉川 「お前のゲームに対するスタンスはともかく、そのせいで世界がどうにかなっちゃダメでしょ」


藤村 「でもこんなにアイテムが出ない世界なんて意味あるか?」


吉川 「あるよ! その尺度で世界をジャッジしちゃダメだよ。どんなにアイテムが出なくても世界はかけがいのないものだから」


藤村 「俺だってムカついて滅ぼそうって言ってるわけじゃないよ? もう眠いからそれを吹き飛ばすには力を開放するしかないっていうだけで」


吉川 「そういう使い方をしていいわけ? 力の解放って」


藤村 「本当はダメだよ。だけど俺の裁量に委ねられてるわけだから。ダメでも誰も止められないよ」


吉川 「最悪のやつにとんでもない能力が発現しちゃったな。そんな理由で世界の事どうにかしちゃダメだよ。やめてよ」


藤村 「それはゲームに言ってくれよ」


吉川 「いや、ゲームに言ってどうにかなる? お前だろ? お前の意志オンリーだろ?」


藤村 「レアドロが出ればこんなことにならないんだよ! まじで眠いんだから」


吉川 「寝ていいよ。寝て明日やろうよ」


藤村 「いや、今寝たら負けだから」


吉川 「何と戦ってるの? 負けてないよ? 明日になってアイテムゲットしても勝ちだよ?」


藤村 「己との戦いだよ! 今日出すって決めたんだから。眠いけど!」


吉川 「あのさ、己との戦いなら、己の中だけでやりきってくれない? 世界巻き込むのよくないよ」


藤村 「それは気の毒だけどしかたがないことだから」


吉川 「しかたがないことではないよ? 全然ないよ? やらなくたって誰も困らないよ」


藤村 「そう言ってくれるのはお前だけだよ」


吉川 「違うと思うけどな。結構多くの人がそう言うと思う。割合的に9割くらい言うよ。それにお前の身体の方が心配だよ」


藤村 「いいんだよ! 俺の身体なんてここで朽ち果てても」


吉川 「よくない! 絶対によくない! 睡眠不足もよくない!」


藤村 「いいか? たとえ傷つき倒れたとしても、人ってのは立ち上がって進まなきゃいけないんだよ」


吉川 「その考え方自体はいいと思うけど、それはゲームのアイテムのためではないな」


藤村 「どんな時だってそうだよ!」


吉川 「どんな時もそうかも知れないけど、唯一の例外がゲームのレアアイテム探してる時だよ。それ以外の時ならなんだっていいから」


藤村 「クッ……! しまった。おまけにお腹まで空いてきた。こうなったらもうあれを出すしかない」


吉川 「まだなにかあるのかよ! やめてくれよ! 世界を! 世界を台無しにしないでくれ!」


藤村 「買い置きしてあるカップ麺を……」


吉川 「普通の対応できるんじゃん!」



暗転

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