羅列

吉川 「以上の点から、源義経がチンギス・ハーンであるという証拠は多いんだよ」


藤村 「なるほど。確かにその通りだ。今の話を聞く限り間違いないな」


吉川 「でしょ? それが問題でさ。こんな風に共通点だけを抽出して羅列するとあたかもそれが事実であるように思えてくるんだよ」


藤村 「違うの? もう俺の中では源義経がチンギス・ハーンだし、源頼朝がギンビス・アスパラガスくらいにはなってるけど」


吉川 「どっから来た、アスパラガス? 実はチンギス・ハーンの前半生が謎に包まれているとは言え、家系はしっかりと由緒が残ってるから全然関係ない亡命してきた日本人が成り代わるってことはないんだよ」


藤村 「それだけ? 違うという根拠はそれだけ?」


吉川 「それだけって。そもそも作り話だから。言語だって違うし、距離だって遠すぎる。否定する材料はいっぱいあるよ?」


藤村 「いや、弱いな。実際にチンギスに直撃インタビューとかしたの?」


吉川 「してないけど。当時はそんなこと言い出す人いなかったから。時代がだいぶ下ってから作り出された話なの」


藤村 「週刊誌とかには載ってたの?」


吉川 「ないよ? 週刊誌は。チンギス・ハーンのゴシップ載らないでしょ」


藤村 「じゃあむしろ怪しいじゃん」


吉川 「だからさ、共通点はなんだってあるよ。そこだけに着目したら説得力あるように思えちゃうんだって」


藤村 「なんにでもある? 本当に? じゃあ織田信長と織田信秀との共通点は?」


吉川 「あるだろ! そりゃあるよ。そんな近いところ持ってくる? 親子なんだから共通点だらけだよ」


藤村 「そんなことないよ? 俺は親父とは全然似てないもん。母親の方に似てるから」


吉川 「そういう問題じゃないよ。織田信まで一緒じゃん」


藤村 「本当だ。……ということは、同一人物?」


吉川 「違うだろ! 親子なんだから。お前の同一判定ガバガバ過ぎだな。普通はさ、もっと遠い存在を持ってくるだろ。源義経とチンギス・ハーンなんて絶対に同一人物なわけ無いじゃん。そのくらい遠いところを」


藤村 「近いと同一人物の可能性が高いのか」


吉川 「そういうことでもないよ! 近くても他人は他人だよ。個人という概念をないがしろにするなよ」


藤村 「じゃあ例えば、夏目漱石ともつれそうな木の共通点は?」


吉川 「なんで韻を踏んでくるんだよ。なんだよ、もつれそうな木って。その概念自体初めて聞いたよ」


藤村 「木がもつれそうになってるんだけど」


吉川 「わかるけど。それは無理やり夏目漱石に寄せただけだろ? 急に出てこないだろ、もつれそうな木は」


藤村 「そう? 前から気になってたけど」


吉川 「というか人物ですらないだろ。もし共通点があって同一人物ってことになっても片方は木だよ? 植物だよ?」


藤村 「もう片方は石だからいいんじゃない?」


吉川 「石の種類じゃないだろ、夏目漱石は」


藤村 「そうなのか。じゃあ声優とVtuberの共通点は?」


吉川 「お前そういう下手すると大変な地雷を踏み抜きそうなエリアに誘い込んでくるんじゃないよ。何か言うのが怖すぎるよ」


藤村 「あるんじゃないの? 共通点」


吉川 「あるだろうけど、その件に関して何も言いたくない。よくそんな普段着感覚で飛び込めるな」


藤村 「じゃあディズニーキャラクターとポケモンの共通点は?」


吉川 「言ったら言ったで火種になりそうなものばっかり提示してくるなよ! 悪意すら感じるぞ」


藤村 「ないかぁ」


吉川 「なくはない! なくはないが、喜んでそれを言うやつなんていないし、いたら無視したい!」


藤村 「じゃあスーパーマンとクラーク・ケントの共通点は?」


吉川 「……ないよ」


藤村 「だよな」


吉川 「ピュアなやつだな!」



暗転

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