吉川 「おはようございます」


藤村 「ッス」


吉川 「なんかあんまり機嫌よくない感じですか?」


藤村 「んなことないですけど? あの、前々から思ってたんですが」


吉川 「はい、なんでしょう?」


藤村 「吉川さんてアイパ悪いですよね?」


吉川 「アイパ? パーマのことですか?」


藤村 「違います。アイパです。え? わかりません? 挨拶の」


吉川 「挨拶の? 挨拶のなんですか?」


藤村 「いや、だから挨拶パフォーマンスですよ」


吉川 「挨拶パフォーマンス。どういうことでしょう?」


藤村 「今もうなんでもパフォーマンス重視の時代なんで。コストパフォーマンス、タイムパフォーマンス、挨拶パフォーマンス」


吉川 「挨拶パフォーマンスでアイパ!? いや、初めて聞きましたけど」


藤村 「吉川さんがおはようございますって言う間に、私なら9人に挨拶できるんですよ」


吉川 「9人に。できてます?」


藤村 「ッスッスッスッスッスッスッスッスッス!」


吉川 「それ挨拶できてます?」


藤村 「9人はちょっと過大評価でした。でも5人くらいにならいけてるはずです」


吉川 「でもそんな挨拶失礼じゃないですか?」


藤村 「そうですよ?」


吉川 「いや、そうですよ。じゃなくて。なんでそんな涼しい顔で肯定してるんですか?」


藤村 「失礼は失礼ですよ。でもパフォーマンス重視なんで」


吉川 「重視なんでじゃなくて。失礼なのはダメじゃないですか?」


藤村 「何言ってるんですか? コスパだってタイパだって、作ってる人にとっては失礼極まりない話でしょ。でもそれはまかり通ってるじゃないですか。現代においては失礼とか失礼じゃないとか、そんなことは些末な話なんですよ」


吉川 「いえ、でも挨拶ってどちらかというと礼儀を重視してこそじゃないですか? 失礼なくらいならやらない方がいいような気もしますけど」


藤村 「あー、なるほどなるほど。つまりレギパことですか?」


吉川 「レギパ!? あるんですか、レギパも」


藤村 「もちろんそうでしょ。一番レギパに優れてるのは土下座なんで、こう土下座の状態で挨拶しまくるのが一番です」


吉川 「本当にそれ優れてます?」


藤村 「こうです。ッスッスッスッス!」


吉川 「全然一番な感じしないですけど。むしろムカつく気が」


藤村 「まぁそうでしょうね。あくまでこれはレギパ重視ですから。相手の気持ちからするとムカつきますよね」


吉川 「ダメじゃないですか。相手の気持を考えないと」


藤村 「だからパフォーマンスを重視するというのは、その他の部分を切り捨てるってことなんですよ。礼儀の代わりに気分を切り捨てるからこそいいわけで」


吉川 「いいですか? それが」


藤村 「相手の気持ちね。キブパでしたら賄賂が一番です」


吉川 「キブパ! 気分のパフォーマンス? 賄賂が一番って言い切るのマズ過ぎませんか? 倫理的に」


藤村 「だから倫理とか言ってるからパフォーマンスが落ちるんですよ。相手の気持をよくするためならどんな悪事でも躊躇せずにやらないと」


吉川 「いやいやいや。ダメでしょ。悪事は」


藤村 「そりゃダメなのはわかってますよ。でもキブパを求めるとそうなるじゃないですか? なんだってそうですよ。コスパだってタイパだって、最低なことは最低ですよ。それまであった豊かな背景をすべて切り捨てるんだから。でもそれを現代人はもてはやしてるじゃないですか」


吉川 「悪事まではしてなくないですか?」


藤村 「それはパフォーマンスを重視してない甘いやり方ですね。パフォーマンスを目指すならとことん追求しないと」


吉川 「そう聞くとパフォーマンス重視する人ってろくでもないやつじゃないですか」


藤村 「なるほどなるほど、そこが気になってるんですね。セギパが」


吉川 「セギパ?」


藤村 「正義パフォーマンスですね」


吉川 「あ、あるんだ? それがあるんなら、そっち重視するのはいいじゃないですか」


藤村 「ただ最もセギパを重視すると人類を絶滅されることになるので……」



暗転

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