ぺてんし

ごたえ

吉川　「口ごたえするな！」

藤村　「はい。すみませんでした」

吉川　「まったく。呆れたやつだな。だいたい弊社がどういう状況だかわかってるのか？」

藤村　「ちょっとタスクが溜まってたせいで」

吉川　「だから口ごたえをするなって言ってるんだよ！　お前の連絡がないせいでこっちは仕事溜まってるんだよ」

藤村　「プリッ！　プリプリッ！」

吉川　「……え？」

藤村　「プリリンッ！」

吉川　「何してるんだ」

藤村　「尻ごたえです」

吉川　「尻ごたえ！？」

藤村　「口ごたえができないんで、せめて」

吉川　「せめて何！？　尻で答えるなよ。口はダメだけど尻ならOKってなるわけないだろ！」

藤村　「なるわけないんですか？」

吉川　「なるわけないというか、そもそも何だよ、尻ごたえって」

藤村　「わかりません？」

吉川　「わからなくはないよ！　でも当然のように意志を疎通できる言葉でもないだろ！　ないから、そんな言葉」

藤村　「でもわかるんですよね？」

吉川　「察しはできるよ」

藤村　「わかるのになんで聞いたんですか？」

吉川　「お前、本当になんだよ！　ああ言えばこう言うし。口ごたえには尻ごたえって。そういうの屁理屈っていうんだよ！」

藤村　「はい。そうです」

吉川　「そうですじゃないよ！」

藤村　「屁理屈ってつまり、尻ごたえのことですよね？」

吉川　「違うだろ！　屁理屈は屁みたいな理屈だよ」

藤村　「尻ごたえも尻みたいなごたえです」

吉川　「なんだごたえって！　尻関係で統合するなよ」

藤村　「そもそも起源は一緒なのではないかという説もあります」

吉川　「なんだよ説って！　どこにその説がまかり通ってるんだよ」

藤村　「あくまで関係者の間でですけど」

吉川　「尻の関係者が他にもいるのかよ！」

藤村　「知り合いで」

吉川　「また尻！　もういいよ、尻の話は」

藤村　「じゃあもういいですかね」

吉川　「じゃあもうよくはないよ！　なんで尻の話で煙に巻いてるんだよ。ケツまくって逃げようとしてんじゃねえぞ！」

藤村　「……」

吉川　「無反応！　そんな残酷なリアクションよくできるな？　せっかくこっちが歩み寄って尻にあわせてやったのに！」

藤村　「あ、そういうことですか」

吉川　「わかってなかったの！？　わかれよ、そのくらいは。お前が尻のレールを敷いたんだろうが」

藤村　「尻のレールとは？」

吉川　「知らないよ！　ないけどな、そんな言葉。ないけどわかるだろ！　尻ごたえが言える人間がなんで急に愚鈍になってるんだよ」

藤村　「俺が知らないだけである言葉なのかと」

吉川　「たとえそうだとしても、流れ上そういう話題なんだろうなくらいの推測はできるだろ」

藤村　「尻のレールなんてことを真面目に考えるのが仕事に関係あるんですか？」

吉川　「ないよ！　俺がおかしいか。そうだな。悪かった。なんかもうわからなくなってきたから。あの、とにかくだ。仕事が溜まってるんだよ。それはわかるよな？」

藤村　「一応」

吉川　「だったらさ、連絡一つしないだけで周りにも迷惑がかかるんだよ。わかるよな？」

藤村　「はい」

吉川　「だったらふんどしを締めてかかれよ」

藤村　「ふんどしを？」

吉川　「もういいよ。なんだよ、尻の話題はもう完全に終わってたわけ？　俺がその終わった空気を読めなくていつまでもしつこく言ってるみたいになっちゃってるんだな」

藤村　「ひょっとして関係者だったんですか？」

吉川　「関係はしてないよ！　あんまり説教ばっかりでもなんだから、ちょっと話の分かるムードを作ろうとして失敗しただけだよ！」

藤村　「あんまり人の言葉尻を捕らえない方が良いと思いますが」

吉川　「確かにそうだがお前にそう言われたくはないよ！　もういいよ、仕事戻れよ」

藤村　「いいですか？　このくらいで済ませてもらえるなんて尻の穴が大きいですね」

吉川　「そんな褒め言葉はない！」

暗転