妖精

警官 「あのちょっとキミ!」


吉川 「え?」


警官 「キミキミ! ほら! ちょっと!」


吉川 「わ、私が見えるんですか?」


警官 「見えるも何も、ダメだよ。こんなところで!」


吉川 「本当に見えるんですね」


警官 「全部見えてるよ。なんで服着ないの!?」


吉川 「あぁ~! そういう? そういう風に見えてるんですか?」


警官 「どういう風とかないだろ。服、どうしたの!?」


吉川 「あの、違うんです。私は妖精さんでして」


警官 「何言ってるの?」


吉川 「純粋な子供にしか見えない妖精さんです」


警官 「いやいや、気の毒なおじさんにしか見えないよ」


吉川 「そういう!? 私の見え方って本人の心を映し出してるように見えたりするんですよ」


警官 「そういうのいいから」


吉川 「いいからって言われても、あなたどんなこと思ってるんですか?」


警官 「待てよ。お前本当にその理屈で切り抜けられると思ってるの? 裸なのに」


吉川 「裸ねぇ。あなたそういう願望が?」


警官 「いいから! じゃあちょっと交番まで来てくれる?」


吉川 「いいからじゃないですよ。だってほら、周りの人誰も私のこと見えてないんですよ?」


警官 「見て見ぬふりだろ! 普通直視できないだろ!」


吉川 「いいえ、違います。大人なのに見える人久しぶりですよ。かなり純粋なんじゃないですか?」


警官 「いつまでその流れやるつもりなの? だったら子供にはどういう風に見えるんだよ!?」


吉川 「意外とこれがパターン少ないんですよ。子供は想像力豊かなんて言いいますけどね、でもそんなのは大人が与えたものの中で組み合わせただけだったりするんで」


警官 「ちょっと説得力のある返しをしてるんじゃないよ! もし妖精だとして、こんなところで裸で何をしてるんだよ!」


吉川 「だから裸はあなたの目にそう映るだけで、こっちは裸の意識はないんで」


警官 「明らかに裸なんだから意識とか無意識とか関係ないだろ!」


吉川 「関係ありますよ。じゃああなた、動物園に行って展示動物を見る時に『うわっ! 裸だ! こっちも!?』ってドギマギするんですか?」


警官 「動物は動物だろ!」


吉川 「妖精は妖精ですよ」


警官 「いや、お前を妖精だと認めたわけじゃないから。ただ屁理屈を言ってる裸のおじさんの可能性の方が断然上だろ」


吉川 「ショック! 子どもたちからそんな風に言われたことなかった」


警官 「とりあえず身分証明書出して。免許でも保険証でも」


吉川 「ないですって。妖精であること自体が自分の証明みたいなものだから」


警官 「ないの? ないとなるとまた手続き面倒になるけど」


吉川 「いいんですか? 困るのそっちですよ? 妖精に対する法ってないんだから」


警官 「確かにないけど」


吉川 「もし捕まったら裸に見られてたことも言いますよ? あなたが裸に見てたって」


警官 「どこからどう見ても裸じゃないか!」


吉川 「一体どこからどう見てるんですか!?」


警官 「ここから普通に見てるよ! 裸……じゃないの?」


吉川 「だからそれはあなたの意志が反映されてるんですって。裸を見たいとか裸になりたいとか、そういう思いがあるわけでしょ?」


警官 「お前に対してはないよ!」


吉川 「私という個人じゃなくて自身の欲求を写してるんですよ。全然わかってくれないな」


警官 「裸もそうだけど言動も怪しいから!」


吉川 「あ! 今、裸もそうだけどって一歩譲歩したでしょ? なんでですか? 裸のことは自分の瑕疵だと認めたんじゃないですか?」


警官 「そうじゃないよ! あなたが認めないから!」


吉川 「裸に対する何かしらの願望があることをあなたも認めなさいよ!」


警官 「……わかった。確かにそういう部分も思い当たる節がないわけではないが、私には理性も常識もあるし、行動に起こそうとしたことはないよ」


吉川 「私が見えるほど純粋なあなただ、認めてくれると信じてましたよ。じゃあ、寒くなってきたから交番に行きましょうか」


警官 「やっぱ裸なんじゃねえか!」



暗転

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