雨にも負けず

藤村 「雨にも負けずってつくづくいい詩だよなぁ」


吉川 「悪くはないよね。そんなに改めてしみじみと噛み締めたことなかったけど」


藤村 「なにより『ず』がいいんだよな」


吉川 「ず?」


藤村 「雨にも負けずの『ず』。次なんだっけ? 風にも負けずだっけ?」


吉川 「そう」


藤村 「また『ず』。ラップとして完璧だもん」


吉川 「ラップとして聞いてたの!? それにしてはそのまんま繰り返しただけだと思うけど」


藤村 「『ず』なんて思いつく、普通?」


吉川 「思いつくと思うけど。打ち消しの助動詞のずでしょ?」


藤村 「そういうのはわからない。けど『ず』がここで来るか? って感じがするじゃん」


吉川 「しない。来るなって思ったよ」


藤村 「意味はわからない格好良さがあるんだよな」


吉川 「意味わかるだろ。打ち消しのずだよ。否定の」


藤村 「意味ってあるの?」


吉川 「意味わかってないで言ってたの?」


藤村 「だって洋楽だって意味分からないで良さがわかるじゃん」


吉川 「そういう気持ちでずがいいなって思ってたんだ」


藤村 「否定だったら『雨にも負けないし、風にも負けないし』でいいじゃん。そこで『ず』出してくるのフレッシュ」


吉川 「ないしの方がむしろフレッシュだろ。聞いたことないよ、そんなカジュアルなの」


藤村 「だいたい『ず』って格好いいじゃん。ほら、バンドとかだいたい『ズ』がついてるし」


吉川 「それは複数形のズでしょ? 雨にも負けずは、雨にも負けが集まってできたバンドじゃないよ?」


藤村 「だから意味とかどうだっていいんだって! バンド名とかも意味を考えて噛みしめるか? なんとなくで受け入れるだろ?」


吉川 「一応考えはするけど? あと意味がわからないのに雨にも負けずにどう感銘受けるの?」


藤村 「だから『ず』なんだって。この座りの良さ。逆に『ず』以外で考えてみろよ。『雨にも負けれ、風にも負けれ』ちょっと軽すぎるだろ?」


吉川 「そんな言葉ないもん」


藤村 「今生まれたんだよ! 言葉なんて生まれては消えていくものなんだから」


吉川 「その勢いだと魚卵くらい生まれそう」


藤村 「『雨にも負けみ、風にも負けみ』これなんて若者なんかにはむしろ好まれそうだけどね」


吉川 「打ち消しの助動詞だからさ。『み』の助動詞ないでしょ。負けないっていう意味が込めれらた『ず』なんだよ」


藤村 「意味にこだわるなぁ。はっきり言って勝ち負けで言ったらさ、『負けず』なんて言ってる時点で負けてるからね」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「もう『負けず』の時点で気持ちが負けてるんだよ」


吉川 「気持ちが」


藤村 「本当に負けてないやつは、ビッショビショになりながら『雨? え、降ってた?』くらいだよ。それはもう全然負けてない」


吉川 「確かに。雨に負けてなさがすごい」


藤村 「負けないぞっていう時点で考え方が挑戦者になっちゃってるから。だから意味としてはあんまりいい詩じゃないね」


吉川 「そんな一刀両断するなよ。続きもあるだろ」


藤村 「続きとかは知らない。雨と風のずだけで十分。サビから入るパターンだから」


吉川 「いくらなんでも二行だけで良くないとか言う権利ないだろ」


藤村 「だいたいわかるよ。『雨にも負けず、風にも負けず、マジで負けず』とかそんなんだろ?」


吉川 「急にヤンキー臭い詩になったな」


藤村 「途中ヤバい時あったけど、結果的には余裕で負けず」


吉川 「負けないなー、負けなさをそこまでアピールする詩じゃないけど」


藤村 「だいたいこういうのって、内容とかよりもやっぱり言い方が重要なんだよ。ギャグだってそうだろ? 棒読みじゃ面白くないんだから」


吉川 「言い方考えたことなかったよ」


藤村 「一回言ってやるから、ちょっと目をつぶって聞いてみろ。本当に心に来るぞ?」


吉川 「心に」


藤村 「雨にも負けず」


吉川 「うん」


藤村 「ぁ風にも負けず」


吉川 「……ん?」


藤村 「あぁ~負けず」


吉川 「チャーリー浜の言い方!」



暗転

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