軍師

藤村 「フッ、そうきてくれると思ってたぜ」


吉川 「まさか! はじめから読んでたのか?」


藤村 「当然だ。この俺は天才軍師だぞ。常に相手の半手先を読んでいる」


吉川 「半手?」


藤村 「そう、半手先だ。なに? なんかあんのか?」


吉川 「いや、天才っていうくらいだから十手先とか三手先くらいまで読めてるのかと思ったから」


藤村 「半手でいいだろ! 読めてるんだから! 普通は読めないんだよ」


吉川 「ま、まぁそうだよな。すごいよ。おかげで助かったし。で、このあとどうすればいいのか?」


藤村 「わからない」


吉川 「え?」


藤村 「全然わからない」


吉川 「全然わからないの? 軍師なのに?」


藤村 「半手は読めてたんだけど、そのあとのターンのこと考えたことなかった」


吉川 「考えたことなかったの? 自ターンを? そんなことなくない? 普通考えちゃわない?」


藤村 「だから相手の手を読んで半手だろ! こっちの手を入れたら一手じゃん」


吉川 「そういう計算なんだ。じゃあ俺たちは今どうすべきなのか考えてないの?」


藤村 「ちょっとそこまで余裕なかった」


吉川 「なかったの。じゃあ今考えてよ!」


藤村 「まぁ、そう慌てるな」


吉川 「なにかいい手が!?」


藤村 「いや、なんも。空っぽ。今なら英単語スルスル覚えられそうなくらい空っぽ」


吉川 「そんなに脳にスペース空くことあるの? 入れ放題になるほど!?」


藤村 「だってこっちが手を打つってことは、その相手の反応も読まなきゃいけないんだよ? 半手先を」


吉川 「それは得意なんじゃないの?」


藤村 「出来はするけど得意じゃないよ! 頑張ってやってるんだよ!」


吉川 「あ、それはなんかゴメン」


藤村 「ああするとこう来る、こうしたらそう来る。う~ん、あんまりいい手がない。一回パスするか」


吉川 「パス!? パスって概念ありうるの? 生きるか死ぬかの戦闘で?」


藤村 「パスは読まれてない気がするんだよ」


吉川 「読まれてなくても向こうの思うつぼじゃない? 相手が自由になるだけでしょ?」


藤村 「お前は天才軍師じゃないんだから相手がなにするか予測するなよ!」


吉川 「いや、そのくらいはわかるでしょ。どっちかと言うと現状で追い詰められてるのはこっちなんだから」


藤村 「うるせぇ! バーカ!」


吉川 「は? バカっていう方がバカなんですけど!」


藤村 「フッ、その手は読んでたぜ。絶対そういうと思った」


吉川 「半手読みをこんなしょうもないことで消費しないでくれる? もっと戦略的なことで考えてくれよ」


藤村 「そんなこと言われるとは思わなかった……」


吉川 「読めてない! 半手しか読めてないから、バカっていう方がバカまでは読めてたけど、その後の反論は想像の外から突かれちゃったのか」


藤村 「よし、じゃあここにブーブークッションを置いて隠れよう」


吉川 「ブー? なに? ブービートラップのこと?」


藤村 「いや、ブーブークッション。踏むと屁の音がするやつ。わあっ! ってなるから。そこまで読めてるから」


吉川 「この緊張感のある戦場でよくそこまで幼稚なことを思いつけるな」


藤村 「それも策略のうちさ。まさかブーブークッションが出てくるとは相手も思うまい」


吉川 「そりゃ思わないよ。誰だって思わないよ」


藤村 「よし、これを置いて。隠れろ、こっちだ!」


吉川 「まじで隠れるのかよ。バカバカしすぎる」


    ブーー!


藤村 「うわっ! なんでこんなところにブーブークッションが!? 誰だよ、こんなところに!」


吉川 「知らないよ。お前がここに隠れるように言ったんだろ!」


藤村 「まさか相手は、一手先を読む天才軍師なんじゃ!?」


吉川 「そうかも知れないな。あっちの方が天才だな」


藤村 「こうなったら打つ手は一つしかない!」


吉川 「なにか手があるのか?」


藤村 「あぁ。相手に俺がどんな手を打つか聞いてきてくれ!」



暗転

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