言葉狩り

吉川 「あ、でも最近はあんまりそういう言い方避けるようになってきてるか」


言狩 「そんな配慮はやめろ!」


吉川 「え、誰?」


言狩 「世にはびこる言葉狩りを許さない! 俺は言葉狩りハンター、人呼んで言葉ガリガリ!」


吉川 「言葉ガリガリ!」


言狩 「ガリガリしていくぜ!」


吉川 「え、でも。いや、あんまりそういうこと言っちゃだめなのか」


言狩 「言っちゃいけない言葉なんてない! 勇気を持って言い給え!」


吉川 「あ、そう? 全然ガリガリじゃないですよね。むしろ腹とか出てるし」


言狩 「……初対面でそれはなくない?」


吉川 「言って良いって言ったから」


言狩 「言ったけどさ。いや、言うべきだけどさ。いいんだけどさ」


吉川 「自分のアイデンティティとコンフリクトが生じてる」


言狩 「そんなわけで私はあらゆる言葉狩りを許さない! どんな言葉も生まれてきた意味がある。それは尊重されるべきだ!」


吉川 「立派な思想で」


言狩 「言葉というのは絶えず変化する。つまり生き物みたいなものなんだよ」


吉川 「だったら狩りをする人がいてもおかしくないんじゃない?」


言狩 「なんでそういうこというの? イギリス人か?」


吉川 「言っちゃダメでしたか?」


言狩 「ダメじゃないよ? いいよ。 言っていいけど。言っていいけどさ! こっちのテンション感とかあるでしょ」


吉川 「じゃ、もう言いません」


言狩 「いいんだよ! 言ってよ! 言葉狩りは許さないぞ!」


吉川 「すげえ面倒くさいおじさんみたい。SNSにいるやつ。女にしかリプ返さない」


言狩 「あのさ」


吉川 「すみません。言うべきじゃなかったです」


言狩 「いいよ! 言えよ! 思ったんなら言っていいけど、言う前にさ一回ちょっと相手の気持とか考えない?」


吉川 「それで言うべきじゃないと思ったら?」


言狩 「そんなことは思わなくていい。言葉狩りは許さない!」


吉川 「じゃあ別にいいんじゃないですか?」


言狩 「あのさ、そうなんだけどさ。趣旨がちょっと違うんだよ。そういう直の罵倒じゃなくてさ、社会的に配慮されすぎて使われなくなった言葉とかを救済したいという気持ちでやってる活動だから」


吉川 「じゃあ卓球とか言ってもいいんですね」


言狩 「……それは最初から良くない?」


吉川 「でもファッキューに似てるんでもし英語圏の方に誤解を与えたらまずいですし」


言狩 「思ったことなかったよ。いいよ、卓球はスポーツの名前として親しまれてるもん。そういういちゃもん付ける人にはちゃんと経緯を話せばいいから。その対話が必要なんだから」


吉川 「じゃあ、浅はかってのも言っていいんですね?」


言狩 「……いいよ? え、いけない言葉だった?」


吉川 「ちょっとマザファッカに似てるんで」


言狩 「そんなこと言ってる人いる!?」


吉川 「前々から似てるなぁと思ってて」


言狩 「独自で思ったの? なに? 言葉狩りワードを考える天才なの? 新たな火種を作り出さないでよ」


吉川 「そうだ! 言葉狩りと言えばこの間エロい動画見てたんですけど『どこが気持ちいいのか言ってごらん?』って問いかけに相手が詰まってました」


言狩 「それは言葉狩りじゃないよ! 恥ずかしいからだろ! そんな最中に世間に配慮して言葉を慎む人いないよ! むしろそのモジモジがご馳走なわけだろ」


吉川 「なんだ、そういう茶番なんですね」


言狩 「茶番って言うなよ。いや、言っていいけど!」


掟破 「そんなルールちゃんちゃらおかしいぜ」


吉川 「また新たな人が!?」


掟破 「掟破りをさらにクラッシュ! 掟破り破りとは俺のこと。人呼んで、掟ブリブリ!」


吉川 「あの、ブリブリってのは……」


言狩 「それ以上言ってやるな!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る