ぺてんし

裏切り

吉川　「考えたくないが組織の中に裏切り者がいるとしか思えない」

藤村　「あぁ、そのようだな」

吉川　「そう言ってるお前が裏切り者なんじゃないか？」

藤村　「おいおい、よりによって俺が？　冗談にもほどがあるぜ」

吉川　「うわっ！　おい、どうした！？」

藤村　「気にするな。ただおしっこチビッただけだ」

吉川　「おしっこチビったの！？　なんで急に」

藤村　「まぁ慌てるな。これはただメチャクチャ我慢していただけであって、裏切りとかそういうのとは全く関係のないチビりだ」

吉川　「いや、裏切りのことは一旦置いておいて、チビるのはおかしいだろ！」

藤村　「おや？　ただのおしっこチビりにそこまで過剰に反応するとは。さてはお前が裏切り者か？」

吉川　「ただのおしっこチビりってなんだよ。ただじゃないよ！　どんな状況でもおしっこチビったら異常だよ」

藤村　「俺は組織に入る時もボスが怖すぎておしっこチビッたが、周りの奴らは顔色一つ変えなかったぜ」

吉川　「その都度チビッてるの？　なにかあるごとに？」

藤村　「チビってない時だって結構あるんだぜ？」

吉川　「普通はそうだよ。チビってないのが当たり前！　大人になってチビることなんてないから！」

藤村　「どうやら裏切り者が馬脚を現したようだな」

吉川　「どういう意味だよ！？」

藤村　「そ、そんな怖い顔するなよ」

吉川　「お前、追いチビりしただろ！　今チョロっとチビっただろ！」

藤村　「顔が怖すぎる。ちょっと言っただけなのにそんな顔するかね？」

吉川　「こっちは裏切り者がいるってことで気が立っているのに、不用意なこと言うからだろうが！」

藤村　「そうだな。こうしちゃいられない。このままだと痒くなってくるぞ」

吉川　「それはお前がチビってるからだろ。知らないけど！　痒くなるのかどうかまでは」

藤村　「知らないわけないだろ。チビッたあと放置したら痒くなるのはたとえ裏切り者だとしても共通だ」

吉川　「チビらないから！　裏切る裏切らない以前にチビらないんだよ！　チビり前提で話を進めるなよ」

藤村　「ただここで俺が裏切り者ではないという証ができたな」

吉川　「どういうこと？　なにか証を立てれてるか？」

藤村　「もし俺が本当に裏切り者だったとしたら、チビること前提で替えのパンツとズボンを用意してるはずだろ？　でも俺は用意してない。だからすごい困ってる。どうしよう？」

吉川　「知らないよ！　知らないし、なんで裏切り者はチビるって話になってるんだよ。それもおかしいだろ」

藤村　「俺のは純粋なチビりだから。裏切りとかそういうやましい部分はまったくない」

吉川　「やましさのない純粋なチビりを急にしてくる大人に対して俺はどういう感情を抱けばいいんだよ！」

藤村　「むしろ急にチビるのは怪しすぎて選択肢から外れることだってありうるわけじゃない？」

吉川　「この世にはチビりによって何かが決定したり覆されたりすることはないんだよ。チビりは単なる状態異常なんだから」

藤村　「確かにこんなことを議論していてもしょうがない。なにか裏切り者手がかりがないか探らなきゃ」

吉川　「その状態で気持切り替えられるのすごいな。まだお前のことを完全に信用したわけじゃないが、とりあえず前に進もう」

藤村　「前に進もうにも、靴の中にしっこ入っちゃって、なんか歩くごとにカッポカッポになるんだけど」

吉川　「もううるせぇよ！　せっかくこっちがチビりから頭を離そうとしてるのに、どうせ裏切り者の名前はすぐにわかるさ」

藤村　「もう目星は付いてるのか？」

吉川　「なんの手も打ってないわけがないだろ。ちゃんとカメラを仕掛けてあるさ」

藤村　「ほほぅ。やるじゃないか」

吉川　「この映像を見れば一発でわかる」

藤村　「ま、ま、待てよ。お前が裏切り者でこの映像が捏造されてるって可能性もあるわけだろ……」

吉川　「お前！　また！？」

藤村　「違う！　これはおしっこではない！」

暗転