そんな言い方

藤村 「俺はどうかと思うけどね?」


吉川 「まぁ、確かに多少問題はあるやり方だよな」


藤村 「多少? まともな神経ならあんなことできないはずだよ」


吉川 「そうかも知れないけど、向こうにも事情があったんじゃないかな」


藤村 「お前だってあのクソチビよ。吠え面かくなよって言ってたじゃん?」


吉川 「そんな言い方はしてないよ」


藤村 「言ってただろ、そんなこと」


吉川 「あとで後悔するかもねとは言ったけど」


藤村 「ほら、言ってるじゃん」


吉川 「いやいや、言い方がそんなにラディカルじゃないでしょ。クソチビなんて言わないよ」


藤村 「思ってはいたわけでしょ?」


吉川 「思ってもないよ。他人の身長なんて気にしないもん」


藤村 「だけどアイツのやり方は汚すぎるんだよな」


吉川 「わかってないんじゃない? 周りの反感を買うと結局本人に返ってくるからね」


藤村 「お前だって、育ちが悪いから生き様が汚さすぎるんだよ。惨めさ背負ったまま生き恥晒せよ、メガネブタ! って言ってたじゃん」


吉川 「そんな言い方してない!」


藤村 「言ってただろ、そんな感じのこと」


吉川 「家庭が複雑だったとは言ったよ? でも育ちが悪いとか言ってないし」


藤村 「言ってないけど、思ってたってことでしょ」


吉川 「そんな風に他人のことを思わないよ。あとメガネブタなんて思ったことない。痩せてるし」


藤村 「メガネミイラとは思ってた?」


吉川 「思ってないよ! なんでそう極端に悪意を持って言う方向性にしてるんだよ? それにあの人メガネかけてたっけ?」


藤村 「裸眼ミイラとは思ってた?」


吉川 「メガネを掛けてない痩せた人のこと、裸眼ミイラだって思う? 普段すれ違う人のことを裸眼ミイラだなって思いながら生活するやついる?」


藤村 「俺は他人のメガネに興味ないから」


吉川 「俺だってないよ! お前が勝手に俺の発言を捏造してるんだろ」


藤村 「いや、お前はメガネにこだわりありそうだから」


吉川 「自分のメガネにはこだわるよ! けど、他人がメガネしてようがしてなかろうが気にしないよ。あと俺の言葉を曲解しすぎだって」


藤村 「でもだいたいそういうことを言ってるだけだろ?」


吉川 「無理やり悪意がある感じに受け止めないでくれよ。俺は極力中立の立場で言ってるつもりだから」


藤村 「でもお前だって、やられたらやり返す、倍返しだ! って言ってたじゃん」


吉川 「言ってない。なにそれ? どこのタイミングで言った?」


藤村 「反感がとか」


吉川 「反感を買うと自分に返ってくるとは言ったよ? なに、倍返しって? そんなちょっと今更使うにも機を逸したフレーズ言うわけないじゃん?」


藤村 「言ってはないけど思ってはいただろ?」


吉川 「思ってもないよ、倍返しは! 意味違うじゃん。あと勝手に攻撃的に受け止めないでって。もっと柔らかいイメージで言葉を受け止めてくれよ」


藤村 「でもお前だって、向こうにも心に秘めた思いがあり、誰にも吐露できない影を抱えながら苦悩の船に揺られているって言ってたじゃん」


吉川 「言ってないよ? なにそれ? 急にどうした? 俺がそんなことを?」


藤村 「なんか事情がどうとか」


吉川 「向こうにも事情がある、とは言ったよ? それがさっきの? 急にポエムみたいになったけど。船はいつの間に乗ったの?」


藤村 「言ってはないけど思ってはいただろ?」


吉川 「思って……たかなぁ? 攻撃的に言い換えるんじゃなくて、他のもできるんだ?」


藤村 「俺にはそういう風に聞こえてたから」


吉川 「そんな言い方はしてないのに。受け止め方によってどう変化するかわからないの怖いな」


藤村 「あとお前だって、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、メガネを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか? って言ってたじゃん」


吉川 「メガネの話!? そんな言い方してない!」



暗転

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