通訳

吉川 「了解しています。経済面での連携は重要ですね。ただし、気になる点があります。最近の環境問題に対する対応や、国際的な安全保障の課題について、貴国の考えはどのようなものでしょうか?」


通訳 「えー、それに関しては、えー。あの、ちょっとすみません」


吉川 「大丈夫ですか、通訳の方?」


通訳 「すみません、なんかあんまりよく聞き取れなくてですね」


吉川 「はい」


通訳 「相手はおじいちゃんなんですごいモゴモゴ言ってるんですよ」


吉川 「それを訳すのがあなたの仕事では?」


通訳 「そうです。訳すのは私の仕事ですけど、モゴモゴを解析するのはまた違う能力だと思うんで。ずっとモゴモゴ言ってるんですよ?」


吉川 「頑張って聞き取ってください」


通訳 「いや、頑張ってますよ? 頑張ってないように見えます? こっちは神経を耳に集中して聞き取ってるんですが、モゴモゴなんですよ」


吉川 「全然聞き取れませんか?」


通訳 「相手若い人にチェンジしてもらっていいですか?」


吉川 「いや、チェンジはダメでしょ。他国の首脳なんだから」


通訳 「でもなんかあんまり聞き返しても失礼でしょ? 『は? なんて?』とか言えます?」


吉川 「もうちょっと丁寧にもう一度お願いしたらどうですか?」


通訳 「しました。もう二回チャレンジしました。合計三回言ってもらったんですけど全然聞き取れない。モゴモゴがすごい」


吉川 「確かにモゴモゴ言ってるけど」


通訳 「ラテンの楽器でクイーカって知ってます? サンバとかで使うやつ。あれくらいモゴモゴ言ってる」


吉川 「その楽器は知らないけど。今までの話はできてたんでしょ?」


通訳 「多分できてます」


吉川 「多分なんだ?」


通訳 「だってモゴモゴだったから。ある程度挨拶的なのなら予測が付きますし。あとはアドリブで」


吉川 「アドリブで? アドリブでやってたの?」


通訳 「そうです。通訳って割と7割くらアドリブなんで」


吉川 「そんなことないでしょ。モゴモゴしてるおじいちゃんばっかりじゃないし」


通訳 「モゴモゴ以外にも様々なパターンがあるんですよ。クチャクチャとか声が小さいとかおっぱいデカすぎるとか」


吉川 「おっいデカすぎるは関係ないだろ」


通訳 「海外のスーパーモデルだったから。もうすごいの。圧がすごい」


吉川 「だからといって通訳には関係ないでしょ」


通訳 「デカすぎるおっぱいを前に話なんて聞いてられますか?」


吉川 「られるよ! 仕事なんだから。通訳をしに来たんだろ」


通訳 「いや、あの場はみんなおっぱいに支配されてました。対談の相手もどうでもよくなってたから」


吉川 「そんな話こそどうでもいいよ! 今は仕事してくださいよ。なんとか聞き取って」


通訳 「一回ちょっと自然な流れで早口言葉コーナーにいく方向で会話を進めますか?」


吉川 「なんで? 余計わからないでしょ」


通訳 「ほら、口の周りのエクササイズになるから。滑舌良くなるかも知れないので」


吉川 「首脳と対談するのに、貴重な時間を割いて早口言葉コーナーを挟む流れってある?」


通訳 「でもこのままじゃ貴重な時間もどんどん失われてしまいますし」


吉川 「じゃあ、自然にね。エクササイズさせて聞き取れるようになって」


通訳 「じゃああなたの国ではどんな早口言葉がありますか、的な」


吉川 「全然自然じゃないけど、もうそれでいいよ」


通訳 「ハハッ! 聞きました? 早口言葉メチャクチャ上手い!」


吉川 「わからないよ! 向こうの言語の早口言葉全然わからない。つっかえるポイントもわからないし」


通訳 「早口言葉の時だけモゴモゴしてない。プロなのかな?」


吉川 「プロとかないでしょ。じゃあその感じで話を聞き取ってもらえますか?」


通訳 「なんかお返しにこっちも早口言葉を言いましょう」


吉川 「私が? 関係ないのに。まぁ、流れ上しょうがないか。生麦生米生卵、カエルぴょこぴょこ 三ぴょこぴょこ あわせてぴょこぴょこ 六ぴょこぴょこ」


通訳 「はい。え? はい」


吉川 「なんて言ってる?」


通訳 「モゴモゴ言ってて聞き取れないって」


吉川 「それはお前の言い方だろ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る