ルーツ

藤村 「DNAでルーツがわかるっていう診断をやったんだよ」


吉川 「それ知ってる! なんか芸能人がやってるの見たわ」


藤村 「え、もうやってたの?」


吉川 「俺はやってないけど」


藤村 「よかったぁ。じゃあ今からお前のルーツを発表します」


吉川 「俺の!? 俺のを診断したの?」


藤村 「他に誰がいるっていうんだよ」


吉川 「他にっていうか、普通自分以外やらなくない?」


藤村 「俺はあれだから。ルーツとかは個人情報になるし」


吉川 「俺の個人情報は? なんで俺にその倫理観は適用されてないの?」


藤村 「えっとね。さっき前もって見たんだけど、お前のルーツはそういうの気にしないタイプだったから大丈夫」


吉川 「大丈夫じゃないだろ。それはルーツとか関係なくない? あと申し込んだ時点ではその結果はわかってないんだから、理屈としておかしいだろ」


藤村 「気にするタイプのルーツなの?」


吉川 「いや、ルーツは知らないけど。気にする気にしないじゃなくてさ、お前の自分ではやらないのに人にやるっていう考え方が気になるよ」


藤村 「あー、出てるわ。考え方が気になるタイプって。ルーツで」


吉川 「ルーツでそういうの出るの? 思ってたのと違うんだけど」


藤村 「もし嫌だったら別に診断の結果は言わないけど」


吉川 「気になるだろ。そこまでやったなら。言わないでどうするつもりだよ、お前はもう見てるんだろ?」


藤村 「だから言わないで、匿名でネットにあげるだけで」


吉川 「そっちの方が嫌だろ! 俺に言えよ。そもそもその情報は俺以外の人が知ってもあんまり意味ないんだよ。楽しめないだろ」


藤村 「では発表します。まず70%が人間です」


吉川 「待てよ! それはもうおかしいだろ。人間であることは100%の前提でルーツを探るんだろ? じゃああとの30%何が入ってるんだよ?」


藤村 「あとの30%は該当なしということで」


吉川 「該当なし!? ないことがあるの? 無? 俺の30%はなにか人として欠落した虚無で構成されてるの?」


藤村 「DNAのNの部分が足りないのかも」


吉川 「DNAってそういうものじゃないだろ!」


藤村 「そして以外なことにその70%のうちの40%はエジプト人です」


吉川 「あー、そうなの? まあ、人類はアフリカから来たっていうから。そういう血も当然あるんだろうな」


藤村 「あと15%が、おっちょこちょい」


吉川 「おっちょこちょい! それは性格だろ? 人種とかじゃない」


藤村 「多分エジプト人とおっちょこちょいのハーフだったんじゃないかな」


吉川 「エジプト人にもおっちょこちょいはいるだろ! なんで内包されてないんだよ」


藤村 「エジプト人でおっちょこちょいな人なんて見たことない」


吉川 「そもそもエジプト人そんなに知らないくせに! いるんだよ、きっと。おっちょこちょいも」


藤村 「あと10%が福耳」


吉川 「福耳! もうご先祖様からずーっと福耳なの? その割には俺は別に福耳じゃないけど?」


藤村 「気持ちの上では福耳なんじゃない? きっと」


吉川 「なんだよ、気持ちの上って。概念としての福耳ってありうるのかよ」


藤村 「あと10%でくすぐったがり」


吉川 「もう人種とか性格でもない。なにそれ? 遺伝として伝わるものなの、それって?」


藤村 「DNAのAの部分がくすぐったがりなのかな」


吉川 「だからDNAってそういうもんじゃねえって」


藤村 「あと5%がピラミッド嫌い」


吉川 「エジプト人なのに! 色々あったんだろうな! もう遺伝子に残るくらいの思いが! というか国とか地方とか人種とかそういうのが全然出てきてない。今のところ手がかりがエジプト人しかない」


藤村 「あ、手がかりになりそうなのは、60%の部分を締めてるルーツがあって」


吉川 「どんなの?」


藤村 「童貞だって」


吉川 「それインチキだろ!」



暗転

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