髪の毛

藤村 「髪の毛を切ったのに気づいたとか気づかないとか面倒くさくない?」


吉川 「あー、厄介な問題だな。それ言われたことあるわ」


藤村 「まじでさ、別に無関心なわけじゃないけど、髪の毛って結構複雑なものじゃん」


吉川 「そう! しかもロングからバッサリいくとかならともかく、5cmとかってそんな劇的に変わるわけでもないからな」


藤村 「正直普段から複雑な髪型をしているから、そもそもどのくらいの長さなのか把握できてないんだよ」


吉川 「わかる! 逆に髪切った? と伺ってみたらセット変えただけ、みたいな誤爆もあるからな」


藤村 「人に対する愛情とか興味っていうのは、それぞれじゃん。例えば髪の毛切ったのわからなくても、ポケモンカードのデッキ構成を変えたらすぐ気づくとかさ」


吉川 「ん? うん。それは相手じゃなくてポケモンカードに興味があるってだけじゃない?」


藤村 「髪の毛よりは興味あるだろ。色鮮やかだし」


吉川 「色の鮮やかさがあらゆる基準になるわけじゃないけどな。髪の毛は難しいよ。あとネイルとかもさ」


藤村 「わっかんねーよな! アイアンクローがフェイバリットホールドのプロレスラーならともかくさ、一般人の爪なんて見るかよなぁ?」


吉川 「例が極端だな。多少は見るよ。アイアンクローまでされなくても」


藤村 「アイアンクローしてこないなら爪なんてなくてよくない?」


吉川 「爪の存在意義をまるごと否定しなくてもいいと思うよ。わかりづらいってだけで」


藤村 「あとなんか化粧とかさ」


吉川 「出た! 化粧! それこそまじでわからない!」


藤村 「わからないよなー。良いってことはわかるよ? もうそれでいいじゃない。違いとかわからなくても、全体的に良いものだってわかってるんだから」


吉川 「そうなんだよ。極端にひどいものがあれば逆にわかりやすいんだけど、髪型にせよ化粧にせよ、基準がみんな高いじゃん。その高いところでちょっと違うみたいなのは低い場所にいる人間にはわからないのよ」


藤村 「ポケモンカードのデッキ構成ならなぁ」


吉川 「それはお前の基準が高いからな。世間一般の皆さんのポケモンカードのデッキ構成に対する意識はお前が思ってるよりも低いよ」


藤村 「そういうことか。乳首の色が変わったことに関しても、意外と世間で話題にならないもんな」


吉川 「気持ち悪いな! 乳首の色の変化に気づくのも気持ち悪いし、それをトークテーマとして選ぶ品性が気持ち悪い。全部気持ち悪い」


藤村 「いや、気づくだろ。普通」


吉川 「気づかないし気にしちゃダメだろ」


藤村 「髪型なんかよりよっぽどじゃない?」


吉川 「たまにお前の例は共感性ゼロになるな」


藤村 「あと塩の量とか」


吉川 「塩分量? 料理の? 最近味付け濃くなったなとか? なんか意地悪な姑みたいなこと言うな」


藤村 「前よりも多かったら気にならない?」


吉川 「健康上の理由で気にしてるならな。あとしょっぱすぎたりしたら流石に気づくけど食べられる範囲内なら別に」


藤村 「意外とお前は無頓着なんだな」


吉川 「だから気づくか気づかないかは、相手への興味じゃなくてさ、自分の興味なんだよ。服装だって話し方だって、以前から注意を向けていることなら気づくけど。でも相手への興味ってそういう細部だけじゃないじゃない? 全体として気にしてるかどうかだから」


藤村 「そうだよなぁ。髪切ったとかそういうの気づかないからって文句言わないで欲しいよ」


吉川 「そうそう。お互い様だからね」


藤村 「これから親方になるために頑張るって言っるから応援してるんだけど」


吉川 「親方? なんの?」


藤村 「なんの? 相撲部屋の」


吉川 「何の話?」


藤村 「力士の去就の話だよ」


吉川 「え? 女の子じゃなくて? 化粧とかって」


藤村 「化粧廻しの」


吉川 「力士の話だったの? 断髪? そうなると話は変わるけど」



暗転

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