回復魔法

僧侶 「だから実は一番最初に覚える魔法っていうのは蘇生魔法だったりするんですよ」


吉川 「簡単ってこと?」


僧侶 「簡単ではありません。だけど需要がありますから。誰だって生き返らせることができたらって願います。そうやって多くの人が求めるものってノウハウが貯まりやすいんです。それが体系化されるので、わかりやすい練習方法が伝えられる。きちんと敬虔な姿勢で練習すれば誰だってできるようになりますよ」


吉川 「そういうものなんだ?」


僧侶 「そうですよ。むしろあんまり人が使いたがらないマニアックな魔法はノウハウが蓄積しません。どんなに簡単でも人によってちょっと癖があったり。ほら、牛を愉快に踊らせる魔法とか」


吉川 「牛を愉快に踊らせる魔法」


僧侶 「あんまり魅力ないでしょ?」


吉川 「むしろ興味湧くけど」


僧侶 「聞くだけなら面白そうですけどね。でもそのために簡単だって言っても練習をしなきゃいけません。牛を愉快に踊らせるために地道に敬虔な姿勢で練習したいですか?」


吉川 「同じ大変さだったら蘇生魔法の方がいいなぁ」


僧侶 「そうですよね。そういうものなんですよ。ただ蘇生魔法なんかよりずっと簡単ですよ、牛を愉快に踊らせる魔法は」


吉川 「……で、治るの?」


僧侶 「んんっ。回復魔法ってあるじゃないですか?」


吉川 「それは蘇生魔法とは違うの?」


僧侶 「実は違うんです。結果的に似たようなことをやってはいるんですけど、そもそもの理論構築が違う。回復ってのは治す方向で促進させる、つまり流れとしては進める形なんですよ。逆に蘇生っていうのは以前の状態に戻す、つまり流れとしては戻す方向性なの」


吉川 「へぇ」


僧侶 「だから回復魔法がメチャクチャ上手だからといって蘇生魔法が得意かと言うとそうじゃなかったりします。回復魔法はむしろ料理の下味をしっかりつける魔法とかと近いですね」


吉川 「料理の下味は別に魔法じゃなくてもできるんじゃん」


僧侶 「そんなこと言ったら火だって魔法じゃなくてもつけられますよ。ただ敬虔な姿勢で行為に向き合うことによって、成果を得るというそのプロセスこそが修行とも言えるんです」


吉川 「そっか。……で、治るの?」


僧侶 「だからですね、私たちの回復魔法は敬虔な姿勢で修業をすることによってですね」


吉川 「治るか治らないかを聞いてるんだよ。どうなの? このED治るんですか?」


僧侶 「いや、だからその。治らなくはないです」


吉川 「治らなくはない。治るってこと?」


僧侶 「治らなくはないけど、わかりませんか?」


吉川 「また勃つようになるんですか?」


僧侶 「その言い方もちょっとやめて欲しいな」


吉川 「治るんだったら治してくださいよ」


僧侶 「だから、敬虔な修行をしてですね、わかります? 敬虔て」


吉川 「当たり前じゃないですか! 童貞じゃないんだから。むしろ若い頃は乱れ床達磨って異名を取ってたくらいで」


僧侶 「経験じゃないんですよ! 何その異名。そういうのをしないこと! 禁欲こそが重要なんです」


吉川 「聞いたことはある」


僧侶 「聞いただけでしょ。耳から入ったけど理解しないで通り抜けた言葉でしょ」


吉川 「いやいや、ちゃんと知ってるから。一ヶ月禁欲したあとに性欲爆発する系のシリーズですよね?」


僧侶 「シリーズの話は知らないです! 爆発のためにやってるわけじゃないんですよ。こういう生活こそが大事なの!」


吉川 「だったら治してよ。EDを治す魔法で」


僧侶 「それの特化した魔法はないですよ! あるわけないでしょ。色々治す系のやつが多分効くと思いますけど、そのために修行しないでしょ!」


吉川 「僧侶はEDにならないってこと?」


僧侶 「そういうことを言わないで! 考えもしないで! 世界観が違う。だいたいなんでここに来たんですか。医者だっていいでしょ? 専門の医療機関があるでしょうが」


吉川 「意外とシスター系が好きなんで」


僧侶 「そういうサービスはやってないんだよ!」



暗転

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