お稲荷さん

吉川 「やったぁ! お稲荷さん好きなんだよね」


藤村 「美味しいよね」


吉川 「なんかテンション上がらない? お稲荷さんを前にすると」


藤村 「わかる! ちょっとワクワク感あるんだよな」


吉川 「なんだろうね」


藤村 「おそらくお稲荷さんておにぎりに対する上位互換なんだよ。ケの食べ物であるおにぎりに対してお稲荷さんはハレの食べ物って感じがある」


吉川 「その説はなんか説得力あるな。確かに! だからかぁ。ご馳走ってほどでもないけど、気が利いてるなーって感じがする」


藤村 「クラスの中で一軍の女子ではないけど、二軍の中で俺が個人的に評価してる女子って感じがするよな」


吉川 「その感じ方はちょっとよくわからないけど」


藤村 「意外とそういう目立たなかった子がグラビアアイドルとしてデビューしたりして、クラスの一軍って感じでもなかったのに逆にそれがいいみたいな!」


吉川 「全然わからないな。その話共感する人いるの?」


藤村 「グラビアアイドルの時はパッとしなかったけど、AVに出るとなったらなんか急に気になりだしたりして逆にグラビアが新鮮に見えたりすることあるじゃん?」


吉川 「何の話? その話題で俺をどんな気持ちにさせたいの?」


藤村 「グラビアアイドルの話だけど」


吉川 「なんでグラビアアイドルの話をしてるんだよ!? してなかったよね、グラビアアイドルの話は。話が脇道にそれたまま高速乗っちゃった感じになってる」


藤村 「どこからグラビアの話になったんだっけ?」


吉川 「グラビアの話にはなってないんだよ。一度も。そのつもりで話を展開させた覚えは俺にはまったくない」


藤村 「AVデビューのことは」


吉川 「話してないよ! それはもう高速に乗ってもうパーキングエリア3つくらい過ぎてるよ! 合流しろよ、いなり寿司の話だろ」


藤村 「そんな話はまったくしてない!」


吉川 「してただろ! 結構盛り上がってただろ!」


藤村 「俺たちがしてたのはお稲荷さんの話だ!」


吉川 「一緒だろ?」


藤村 「おまっ、正気か!? 全然違うじゃないか。お稲荷さんだぞ、あの煮た油揚げの中にご飯が入ってる」


吉川 「そのいなり寿司の一般道をずっと進んでたんだよ、俺は」


藤村 「寿司じゃないだろ! あいつは!」


吉川 「……そんな声を荒げること?」


藤村 「確かに俺はお稲荷さんは良いって評価してたよ。でもそれは素朴なクラスの二軍の中の話であって、寿司というきらびやかなトップアイドルの中に入って良いっていう話じゃないんだよ!」


吉川 「また女子に。そのたとえから話が分流してズグズグになってくんだけど」


藤村 「だってそうだろ!? 寿司でいいのか? 今日はお寿司だって気持ちの時にお稲荷さんが平然と寿司づらして出てきたら『え、お前?』ってなるだろ」


吉川 「寿司面ってなに? まぁ、確かに寿司のラインナップ的にはギリだと思うけど」


藤村 「ギリどころじゃないよ。場違いだろ。お前どの面下げて寿司のオーディションに来たの? 書類審査で落とされなかった? コネか? なんか寿司業界に強めのコネがあるのか? ってならない?」


吉川 「そんな言い方しなくてもよくない? 本人だって一生懸命やってるんだし」


藤村 「一生懸命だからいいってものじゃないだろ! おにぎりだって一生懸命やってるだろうが。でもあいつらは寿司ですなんて言わずに場をわきまえてるだろ!」


吉川 「わきまえてるの? おにぎりの立ち振舞をあんまり気にしてなかったから」


藤村 「おにぎりにしてみたらさ、かっぱ巻とかかんぴょう巻はどっちかというと自分ら寄り、むしろ能力としてはおにぎりの方が上くらいの自負はあると思うよ? だけど寿司のメンバーとして相手を立てるおにぎりの奥ゆかしさ。お稲荷さんはお稲荷さんで中堅どころのポジション確立してるんだから、今更トップアイドルに紛れ込もうとするなよ!」


吉川 「そんなつもりはお稲荷さんにもないと思うけど」


藤村 「でも逆に寿司の中でパッとしなかった玉子がAV堕ちしてお稲荷さんと熟女もののコンピレーションに出たりするのはアリかなぁって」


吉川 「もう高速から降りてこなくていいよ!」



暗転

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