ギロチン

藤村 「ギロチンされるじゃない?」


吉川 「されないよ? なに? 何の話? ギロチンチョークとかプロレスの技の話?」


藤村 「違う違う。その元となってるやつ。え、知らない? ギロチンドロップとかギロチンチョークって元々は処刑具のギロチンから来てるんだよ?」


吉川 「それは知ってるよ」


藤村 「あ、知ってるんだ。そのギロチンをされた時にさ」


吉川 「されないでしょ。何の話をしてるの? ゲーム?」


藤村 「違う違う。現実で。ギロチンってファンタジーの世界で造られたものじゃないから。現実にあるものだから」


吉川 「知ってるよ」


藤村 「じゃあなんで話が通じないんだよ。ギロチンをされるだろ?」


吉川 「されないんだよ! なんでされるんだよ?」


藤村 「あんまり結論を急かすなよ。こんなこと言うと暗くなっちゃうかも知れないけど、死ぬ時にするじゃない?」


吉川 「しないんだよ。ギロチンで死ぬやつ現代にいないんだよ」


藤村 「それはわからないだろ。自分がどうやって死ぬのかわかってるやつなんていないよ。うちのおじいちゃんだって50の時にガンが見つかってショックだったって言ってたけど、その後98歳で老衰で死ぬなんて思いもよらなかっただろうに」


吉川 「わかるわからないじゃなくてさ。そりゃわからないけどギロチンはないだろ」


藤村 「なんで? 逆になんで?」


吉川 「逆にじゃなくてないだろ。あんなの違法だろ?」


藤村 「交通事故だって違法だよ? 違法だからダメって言ってなくなるならどれだけの命が救われていることやら」


吉川 「そういう話はしてないんだよ。処刑具だろ」


藤村 「だから話を急ぐなって。ギロチンってさ、元々は人道的な意義を持って開発されたんだよ。それまでは首吊りとかさ、斧で首をはねて失敗したりとか、死ぬのに相当苦痛を伴ってたものを、誰でもスキマ時間にパパッと殺せる主婦も大助かりの処刑具としてできたの。こんな人の心を考えて作られた処刑具ないよ?」


吉川 「いやいや、処刑具の時点で心ないんだよ。もう嫌だろ、処刑具は」


藤村 「何言ってるんだ? ある宗教なんて救世主を殺した処刑具をありがたがって拝んだりしてるんだぞ?」


吉川 「やめよ? そのワンセンテンスで世界中に喧嘩売るのやめよ? もう話を終わりにしよう?」


藤村 「話を急かすなって。人間ってのは処刑具好きんだからギロチンの話をしてもいいだろ?」


吉川 「人間って大きく括って言わないで。俺は好きじゃない」


藤村 「落ち着けよ、ゆったり会話を楽しもう? 誰だって推し処刑具の一つや二つあるだろ? お前なんてアイアン・メイデン似合いそう。ファッション的な意味で」


吉川 「ファッション的な意味はないだろ。アイアン・メイデンに。鋼鉄の処女に。中に入って死んじゃうんだから」


藤村 「でも赤好きじゃん?」


吉川 「血で染まった俺の姿を見て『赤似合う~』っていうの? 病気か?」


藤村 「俺はギロチンで死にたいな。やっぱり処刑の華って感じがするし」


吉川 「処刑には華も実もないんだよ。処刑で死ぬことを想定して人は生きてないよ」


藤村 「でさ、人間てギロチンされて数秒は頭と身体が離れたこと気づかずにちょっと喋ったりするんだって」


吉川 「もう都市伝説みたいな話になってきたな」


藤村 「もう首落とされてるのに『まだかよ?』みたいに言ってる例もあったらしい。早すぎて痛さも気づかないし、やってみたら癖になるんじゃないかな」


吉川 「癖になってもアンコールはないだろ。二度目のリクエストは誰が受け付けるんだよ?」


藤村 「だから首が落ちた時にさ、なんか一言言った動画あげたりしたらバズるぜぇ?」


吉川 「バズるバズらない以前にBANされるけどな。残酷な動画だから。変な拡散のされ方はしそう」


藤村 「俺がギロチンされたら動画撮っておいてよ」


吉川 「そんな地獄みたいなお願いされると思わなかった。なんて言うの?」


藤村 「ほら、だからそうやってすぐに答えを求めるなよ」


吉川 「これ以上気を持たせてどうするんだよ。なんて言うんだよ?」


藤村 「ゆっくりしていってね!」



暗転

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