大晦日

吉川 「いよいよ今年も終わりかぁ」


藤村 「どうしよう。やり残したことがある気がする!」


吉川 「まぁ、そんなものだよ。やりきったという気持ちで新年を迎えることの方が少ないから」


藤村 「なんだろう。何かをしたい! 今年の終わりということを象徴するような何かを!」


吉川 「そんな最後に総決算を望んだところで今更できることもないだろ」


藤村 「そこなんだよ! 大晦日って、ならではの何かがなくない?」


吉川 「まぁ、そばを食べてTVを見るくらいかな」


藤村 「そのくらいだろ? なんかやった方がいいんだよ」


吉川 「いやいや、大晦日くらい何かやらなきゃっていう気持ちから開放されてゆったりと過ごしたいという先人の知恵じゃないの?」


藤村 「その先人たちがこの不景気な国を作ったんだよ!」


吉川 「急に社会派っぽいこと言い出したな。先人もいきなり矛先が向かって驚いてるぞ」


藤村 「だから今年から何かをやればいい」


吉川 「面倒くさー」


藤村 「習慣づければいいんだよ。ハロウィンなんて急にやり始めたけど毎年やってるうちに、もう当たり前になってる。クリスマスにケンタッキー食べるのだってそうだ。だれかがやろうと言い出して自分で何者生み出せない有象無象どもが付和雷同して今があるんだから!」


吉川 「なんか攻撃的すぎるな、言い方が」


藤村 「結果的に面白くないやつが楽しむイベントになって世が乱れてる」


吉川 「なんかハロウィンとかに恨みでもあるの? 別にそんな言わなくてもよくない? 年末に」


藤村 「だから今年からやる何かを考えよう! 例えば……大晦日アメフトとか」


吉川 「きつい! 一年のどの日でもきついアメフトを。なんで大晦日にそんな疲れて怪我もしそうなことを!」


藤村 「それもそうだな。じゃあ大晦日ラグビーにするか」


吉川 「変わってない! ボールの形状が変わってない! カロリー消費がでかすぎることをなぜやらせようとする!」


藤村 「ハロウィンとか見てみろよ。カロリーが有り余ってるんだから。どこかで発散したいんだよ。だからもう大晦日ラグビーはボールとかなしでただ単に人にぶつかり合うだけにしよう」


吉川 「ならず者! なんだよ、その暴れん坊集団は。山賊か!」


藤村 「これが後に押しくら饅頭の起源として伝わる」


吉川 「いや、押しくら饅頭は元からあるものだろ。なんで今自分で生み出した感じにしてるのよ。乗っ取るなよ!」


藤村 「あと決まった食べ物ってのも流行るな。大晦日パスタってのどう?」


吉川 「年越しそばがあるんだよ。なんでそんな麺ばっかりの一日になっちゃうのよ」


藤村 「大晦日の朝は豚骨ラーメンで決まり!」


吉川 「決めるなよ。朝から! 朝から臭いのいくね! 昼はパスタで夜ソバなのに。栄養バランスをもっと考えろよ」


藤村 「じゃあ牛乳。牛乳は栄養バランスがいいから。コーンフレークが健康にいいのもほぼ牛乳の力だから。大晦日牛乳」


吉川 「悪くないけど、牛乳は別にハレの飲み物じゃないだろ。日常に根付いたケの飲み物だよ。みんな飲む人は大晦日に限らず飲んでるよ」


藤村 「あ! 願い事ってのはどう? 七夕みたいに。クリスマスが終わって廃棄処分になったツリーに願い事を下げてみんなで祈るの」


吉川 「アイデア自体は悪くないけど、正月に初詣行くじゃん。短いスパンで色々願いすぎてない?」


藤村 「それもそうだな。来年のこと何も考えてなかった。じゃあなんか恨み言とか書いて炊き上げるか。呪いとか。誰だって一年間で嫌な思いあっただろ。それを昇華する」


吉川 「割といいアイデアと言えなくはないけど、忘れかけてたのをそのために思い出してムカついちゃうことない?」


藤村 「みんな年末に向けて嫌なことをリストアップする生活になるな」


吉川 「それがいい人もいるだろうけど、結構社会的に悪影響を及ぼしそうな気がするよ」


藤村 「でも色々アイデアを出してたら、なんかやりきった感というか充実感がでてきたな。これ来年の大晦日もやろう」


吉川 「う、うん」


藤村 「じゃ、良いお年を!」


吉川 「あぁ、良いお年を」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る