かも知れない

吉川 「ちくしょうっ! あいつをぶっ殺してやる!」


藤村 「やめるんだ、吉川。復讐なんて」


吉川 「お前に俺の気持ちがわかるか!」


藤村 「わからないかも知れない。でも、これ以上お前が傷つくのを見たくない!」


吉川 「傷つく? 俺はあいつに復讐をしなければ、もう一歩も前に進めないんだ!」


藤村 「復讐なんてしてもあの人は喜ばないかも知れないぞ!」


吉川 「そうかも知れない。でもあの人がいなくなった以上、俺を止るものは誰もいない」


藤村 「いるかも知れないじゃないか!」


吉川 「たとえいたとしても、引けないところまで来ちまったんだ」


藤村 「だからと言って復讐なんて何も生まないかも知れない!」


吉川 「ん? そうだな。生まないかも知れないけど。でもやると決めたんだ」


藤村 「そんなお前の姿を見たらあの人は悲しむかも知れないぞ!」


吉川 「お前に何がわかるんだよ!」


藤村 「今ならまだやり直せるかも知れないぞ!」


吉川 「無理だよ。あいつを道連れにして、俺も死ぬ!」


藤村 「そんなことしても意味がないかも知れない!」


吉川 「んん? そうだけど。なんだよ、かもって。意味がないかも知れないんだったらあるかも知れないだろ」


藤村 「そうかも知れない」


吉川 「納得したのか。どうせ俺みたいなやつが生きててもしょうがないんだ!」


藤村 「そんなことはないかも知れない!」


吉川 「ちょっと何? さっきから。かも知れないって。生きててもしょうがないかも知れない、そこは否定してくれたほうが良くない?」


藤村 「何のことかよくわからないかも知れない」


吉川 「よくわからない? 言っただろ。そんなことはないかも知れないって」


藤村 「言ったかも知れない」


吉川 「お前、自分の言動に責任を持てよ」


藤村 「なんか怒られてるかも知れない?」


吉川 「知れないじゃなくて。なんか断言するところはちゃんと断言しろよ。かも知れないって言われるとこっちが気持ち悪いから」


藤村 「それは申し訳なかったかも知れない」


吉川 「そこも、知れないじゃなくてちゃんと謝ったほうが良くない? なんか知れないで上手いこと責任から逃れようとしてない?」


藤村 「したかも知れない」


吉川 「したんだよ。してる。ちゃんと断言するところは断言しろよ」


藤村 「でも世の中に絶対というものはないかも知れない」


吉川 「それもだよ! かも知れないって言うなら、世の中に絶対はない! って断言しなきゃダメだろ。そこをかも知れないにすると、絶対は確率としてはあるってことになっちゃう」


藤村 「ちょっと難しくて何言ってるかわからないかも知れない」


吉川 「だから絶対はないんだろ? だから断言しないんだろ?」


藤村 「絶対は?」


吉川 「もうよくわからなくなっちゃってるか?」


藤村 「結構最初の部分で躓いたかも知れない」


吉川 「知れないじゃなくて躓いてるな。確実に。ごめんな、難しかったか?」


藤村 「そうでもなかったかも知れなくないかも知れない」


吉川 「もうかも知れないが多層になりすぎて何をどう言いたいのかもわからなくなってきたな」


藤村 「俺が悪かったかも知れない」


吉川 「まぁ、そうだな。全体的にお前が悪かったけど、悪かったかも知れないって言い方、なんかワンチャン悪くないって思ってるだろ?」


藤村 「何を言ってもダメかも知れない」


吉川 「何を言ってもっていうか、その知れないがダメなんだよ。内容じゃなくて語尾が」


藤村 「なんか、わかってきたかも知れない」


吉川 「わかってきたかも知れないけど、その知れないをやめない限りなんか全然スッキリしないな。元はと言えば俺が言い出したことだから悪いのは俺なんだけどさ。まぁ、俺もちょっと頭に血が上ってたよ。意外とそういう所あるから」


藤村 「お里が知れる」


吉川 「それは悪口だろ!」



暗転

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