頭山

藤村 「毎度馬鹿馬鹿しい噺を一席。あるところにケチな男がおりまして。これがまぁ、とんでもないケチでしてね。どのくらいケチかと言うと……。どのくらいケチだと思います?」


吉川 「え……。客に聞いていくスタイルなの? 落語じゃなかったの?」


藤村 「本当にもうものすごいケチなんですよ。ケチと言えばあなたはどんなことを思い浮かべます?」


吉川 「急に振られたから。用意してないんで」


藤村 「そう! まさにちょうどそのくらいケチ。もうあらゆるものを用意しないくらいケチだったんですよ。必要になったらその都度人から借りてくる。借りられる方もたまったもんじゃないというね」


吉川 「あ、やっぱりプロの噺家さんだけあってどんな答えでも上手く拾ってくれるんだ。良かったぁ」


藤村 「あなた、次も聞きますから今度は用意しておいてくださいね」


吉川 「え、私? また来るの? 落語ってそういうものだっけ?」


藤村 「そのケチな男なんですが、気にかけてくれる人はいるもんで、お土産にある果物をくれたんですね。どんな果物だと思います?」


吉川 「もう!? ターンが回ってくるの早い」


藤村 「一応聞くって言っておいたから。用意はしてますでしょ?」


吉川 「いや、用意できてないです。そんな急に言われても」


藤村 「急じゃなくて、言ったじゃないですか」


吉川 「言われたけど、問い自体が急じゃないですか。サクラじゃないんだからパッパパッパとすぐ答えなんて言えないですよ」


藤村 「お。今なんて言いました?」


吉川 「え? パッパパッパと……」


藤村 「そう。まさにそれ! サクランボをもらっちゃいました」


吉川 「あ、そっちか」


藤村 「早速いただきましょうと食べたところでやっぱりケチな男。種を吐き出すのがどうにも勿体ない。ええい、飲んじまえ。とゴクリ。そしてサクランボのついていた茎部分も捨てるのが惜しい。さて、こいつはどうしようか?」


吉川 「……」


藤村 「どうしようか?」


吉川 「また!? こっち待ちなの?」


藤村 「待ちです」


吉川 「待ちですじゃなくて。待たないで進めてくださいよ」


藤村 「サクランボの茎を……?」


吉川 「食べた?」


藤村 「そう、おもむろに口の中に入れると舌を使って器用に結んで吐き出した。これができるとテクニシャンだってギルガメッシュナイトでやってました」


吉川 「俺の答え意味あった? だいたい何? この話の時代設定はいつなの? なんだよ、ギルガメッシュナイトって。名前しか聞いたことないよ」


藤村 「そしたらなんと、飲んだサクランボの種から芽が出てケチな男の頭の上にポンッと咲いちゃった! 噂を聞いた人がその男の頭の桜を見にわーっと集まってきたから大変。……で?」


吉川 「いよいよ聞き方が雑になってきた。なに、でって? 知らないよ! 話の筋自体はそっちが舵とってくれよ」


藤村 「ちょうどその桜が見事な花盛りで、みんな男の頭に上って花見をし始めた」


吉川 「上って? スケール感がクラクラする噺だな」


藤村 「さぁ、花見といえばやっぱり食べたい物があるじゃないですか?」


吉川 「……」


藤村 「あるでしょ? ねぇ?」


吉川 「また聞いてるの? もうこっちに振らなくていいですよ。進めてくださいよ」


藤村 「花見で食べたいなぁ、アレ。あー食べたい。花見の時はもうアレしかないな」


吉川 「団子?」


藤村 「アメリカンドックですね。これが花見とベストマッチ!」


吉川 「そうかぁ? アメリカンドック? 思ったこと一度もないけど。聞いた上に無視されるの、なんかすごい恥ずかしいんだけど」


藤村 「で客がアメリカンドックを食べてるとついにケチな男が怒り始めた。さぁ、花見客の運命はいかに!?」


吉川 「ええと……」


藤村 「続きはまた次回!」


吉川 「あ、聞いたわけじゃないんだ。いや、続くなよ! なんだよ、この噺」



暗転

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