催眠アプリ


藤村 「な、一体何を!?」


吉川 「見たな? もうこれで思いのままだ。お前はこの催眠アプリの虜さ」


藤村 「クッ……! まさか催眠アプリにやられるだなんて!」


吉川 「ヒッヒッヒ。まず手始めに、お前はブロッコリーを食べられるようになる」


藤村 「そんなわけないだろ! ちょっと待てよ! 何を言ってるんだよ!?」


吉川 「え、効いてない?」


藤村 「効いてはいるよ! 生まれて初めてブロッコリー食べたい気持ちになってるよ。でもおかしいだろ? なんで催眠アプリでやるのが好き嫌いの克服なんだよ!」


吉川 「なんでって……。催眠だから」


藤村 「そんなポジティブな使い方するわけないだろっ! 催眠アプリだぞ? お前素人か?」


吉川 「いや、素人っていうか。その、プロっているの催眠アプリの」


藤村 「催眠アプリってのはエロのためのものなんだよ! それ以外に使うなんて催眠アプリに対する冒涜だよ! よく切れるからって医療用メスで魚さばかないだろ!」


吉川 「えーと、お前は部屋の掃除をしたくなる」


藤村 「それはするよ! そんなことは催眠アプリを経由するなよ! 直で言え! せっかくの催眠アプリなんだぞ? チャンスを無にするなよ!」


吉川 「もうなにを指示したらいいかわからない。夢を諦めないで!」


藤村 「漠然! そんな気持ちの良い叱咤激励を催眠アプリを介してやるなよ! ちゃんと目を見て言えよ!」


吉川 「あ、そうだ。ちょっと荷物二階に運ぶの手伝ってくれるかな?」


藤村 「役立てようとするなよ! そういうものじゃないだろ! もっとあるだろ! 変態的な指示が! こっちは催眠アプリの画面を見た時点で微勃起してるくらいなんだよ! この盛り上がった気持ちをどうしてくれるんだ!」


吉川 「人生いろいろあって落ち込むこともあるだろうけど、気分をスッキリさせてゆっくりよく眠ってください」


藤村 「カウンセラーかよ! 健全な方向にもっていくなよ! そんな人の幸せを願うような人間がもっていいガジェットじゃないんだよ、催眠アプリは! 人間のクズ! ドクズが使うものなんだから!」


吉川 「せっかく催眠術ができるのに?」


藤村 「そうだよ! せっかく催眠術ができるけどエロにしか使わない! それが催眠アプリなんだよ!」


吉川 「そんなのもったいないじゃない」


藤村 「もったいなくないんだよ! 使う人はみんなそれ目的なんだから」


吉川 「色々試したいのに」


藤村 「普通の人は色々試せるとわかったら、真っ先にエロを試すんだよ!」


吉川 「それ本当に普通の人?」


藤村 「そうだよ! それ以外をやるなんて異常者! 人間は動物なんだから。本能には抗えないんだよ!」


吉川 「そんなことないでしょ。大空へ羽ばたけ!」


藤村 「物理的に無理なことを催眠で指示するなよ! せめてメンタルに関連したことを言え! 催眠関係なく羽ばたいてる人間見たことないだろ!」


吉川 「年収一千万になれ!」


藤村 「なりたいさ! そりゃなりたいさ! でもそれは俺に言ってもしょうがないだろ! もっとえらい人にそれを言ってくれよ。こっちからも頼むよ!」


吉川 「人類の平和に貢献しろ!」


藤村 「するけど! 具体的に何!? そりゃできればしたいけど、なにをどうするの? よしんばできたとして、催眠アプリで指示されなくてもいいだろ。ノーベル平和賞の受賞コメントで『催眠アプリのおかげです』っていうの? ノーベルだってそんな爆弾発言はしなかったよ!」


吉川 「文句ばっかりで効いてるのか効いてないのかちっともわからない」


藤村 「だから! あるだろ! もっとなんか! ええい、貸せ! 俺が正しい使い方を教えてやる!」


吉川 「うわぁ、やめろ! 今までのやりとりを全部忘れろ!」


藤村 「な、一体何を!?」


吉川 「何度やってもここに戻ってきてしまう……」



暗転

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