おじいちゃん

藤村 「それでですね、吉川さんには特殊メイクでおじいちゃんになってもらいます」


吉川 「はいはい。なるほど」


藤村 「その状態でバンジージャンプを飛んでもらい、周りの人のリアクションを見るという趣旨になります」


吉川 「ん? え、なにを? バンジー?」


藤村 「バンジージャンプです」


吉川 「なんでバンジージャンプなの?」


藤村 「なんでといわれましても、ゴム無しだと死んじゃいますから」


吉川 「いや、違うよ。なんでゴムがあるのかを問うてるわけじゃないよ! 特殊メイクで老人になるんだよね?」


藤村 「はい、なってもらいます」


吉川 「だったらその状態で、私が得意なことをして、実は吉川でしたっていう流れじゃないの?」


藤村 「はい。そうです」


吉川 「いや、バンジーは得意じゃないよ?」


藤村 「そんなそんな」


吉川 「謙遜じゃねえよ? そもそもバンジーの得意って何よ? 上手いとか下手とかそんなにないでしょ、あれは」


藤村 「どうしてもゴムがない方がいいですか?」


吉川 「言ってねえよ! ゴムの有り無しだったら断然有りだけども! そこじゃなくて。バンジージャンプじゃ特殊メイクで老人になった意味がなくない?」


藤村 「そんなことないですよ。おじいちゃんだなってみんな思いますよ」


吉川 「思うかも知れないけど、だからなんだよ? 違うだろ。おじいちゃんだからそんなことは無理だなっていう予測を超えて私が出てくるから驚くんでしょ?」


藤村 「はい、そうです」


吉川 「バンジージャンプじゃそのギャップないでしょ」


藤村 「いや、おじいちゃんはバンジージャンプしないと思いますけど」


吉川 「そうだけどさ! 普通はしないけど、もうそれはやろうとした時点でおじいちゃんである使命は終わってるじゃん。それだったらバンジーするぞって決意する部分で成立するのよ」


藤村 「そんなおじいちゃんいます?」


吉川 「いや、いないけども! いるかも知れないだろ。おじいちゃんにも色々あるだろ!」


藤村 「そんなに色々はないと思いますよ」


吉川 「あるんだよ! おじいちゃんにも! 失礼なこと言うなよ。すべてのおじいちゃんは個性があるよ」


藤村 「どの道すぐ死にますけどね」


吉川 「そういうこと言うなよ。おじいちゃんの一番の特徴としてすぐ死ぬことをフィーチャーするなよ! まだ死んでないんだから!」


藤村 「そうですね。まだギリで」


吉川 「ギリじゃないおじいちゃんもいるよ! じゃなくてさ、これはあれだろ? 本来は一流のアスリートとかが特殊メイクで老人になって、絶対に無理だろうと思ったらすごい技術を見せるギャップが面白いやつだろ!」


藤村 「え? そうなんですか?」


吉川 「わかってなかったよかよ! 企画の面白さ何だと思ってたんだよ」


藤村 「しぶといおじいちゃんが死にそうになるところとか」


吉川 「しぶといって言うなよ! 一生懸命生きてきた年長者に対して! だから普通の人、ましてやおじいちゃんには絶対にできないだろうなっていうことをするから盛り上がるんだろ!」


藤村 「なのでバンジージャンプを」


吉川 「なんでだよ! おじいちゃんだってするよ!」


藤村 「いえ、おじいちゃんはしないです」


吉川 「しないけども! しないけども、するおじいちゃんはするだろ! レア度じゃなくて技術で驚かせようよ」


藤村 「となると、結局ゴム無しってことになりますけど」


吉川 「となると、じゃないよ! となってないだろ! なんでその結論がゴム無しになるんだよ。バンジーじゃなくて技術を見せる何かにしろって言ってるんだよ」


藤村 「どうしても難しいですか?」


吉川 「難しいとかじゃなくておじいちゃんで成立しないだろ! ダメだよ、こんなの!」


藤村 「わかりました。そこまでおっしゃるんでしたら、なんとか都合つけますので、特殊メイクでおばあちゃんになってもらうということで」


吉川 「なにもわかっちゃいないのに、譲歩したみたいな空気出してんじゃねえよ!」



暗転

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