クリスマス

藤村 「あれ? 今日ってあれじゃなかった?」


吉川 「あれって?」


藤村 「なんか外国の祭り」


吉川 「外国の祭り? いや、普通にクリスマスだけど」


藤村 「そう、それだ。その……。なに? クリン?」


吉川 「クリスマス。知ってるだろ、クリスマスくらい」


藤村 「あんまり良く知らないけど。なんかの日なんだよね?」


吉川 「なんかの日だよ。だいたいどの日だってなんかの日ではあるよ。でもクリスマスは普通のなんかの日よりも有名な日だろ」


藤村 「だから外国の祭りだろ。知ってはいるって」


吉川 「そのレベルでしか知らないの? クリスマスを?」


藤村 「そう言う言い方はないだろ。だったらお前は徳川四代将軍が誰だか知ってるのか?」


吉川 「家綱でしょ」


藤村 「そうなの? ま、正解かどうかはわからないけど。人には知らないことがあるんだから」


吉川 「いや、クリスマスは知ってるだろ。普通に生きてたら」


藤村 「知らない人もいるだろ! だったらお前は元素番号43がなにか知ってるのかよ!?」


吉川 「テクネチウムだね」


藤村 「なんだよそれ! そんな元素、知ってるんじゃねえよ!」


吉川 「聞いといてそれはなくない?」


藤村 「お前にだって知らないものはあるだろ! それともあれか? あの、神様みたいに何でも知ってる……」


吉川 「全知全能?」


藤村 「それも知ってる! 全知全能なのかよ。ダメだろ、人間風情がそんなことになっちゃったら」


吉川 「いや、俺だって知らないことはあるよ。でもクリスマスはさ」


藤村 「お前は俺を見て哀れだと思わないのかよ? 徳川将軍も知らない。元素記号も知らない。四字熟語だって小竹向原しか知らない」


吉川 「それは四字熟語じゃないけどな」


藤村 「ほらまた! そうやって知らないものに対してバカにして! お前は確かにあらゆることを知ってるかも知れないが、優しさだけを知らない!」


吉川 「そんな言いがかりみたいなことある? こっちは聞かれたから答えただけなのに」


藤村 「だったらお前は何を知らないんだ? 自分で言ってみろよ」


吉川 「すごい難しい問いを出すな。知らないものは知らないから言えないだろ」


藤村 「つまり、知らないものはないってことだな?」


吉川 「そうは言ってないよ」


藤村 「徳川五代将軍は?」


吉川 「綱吉」


藤村 「ほら知ってる! なんだよ、綱って。綱がつく徳川は知る人ぞ知るマイナー将軍だろ」


吉川 「確かに十五代の中でその二人しかいない」


藤村 「綱はもう将軍って言うより格から言ったら副将軍だよ」


吉川 「副将軍はまた違う役職だろ。水戸黄門とかだよ」


藤村 「普通は家とか康とかがつく名前だろ!」


吉川 「家は多い。でも康がつくのは家康以外にはいないよ」


藤村 「いるかいないかなんて一般人にわかるかよ! 何でも知り過ぎなんだよ!」


吉川 「たかが15人の名前を知ってるくらいでなんでもってことはないだろ」


藤村 「知らないんだよ、普通の人は! ほぼ同じ名前じゃねえか。どうせ家なんとかだろ! 家系いえけいの名前!」


吉川 「ラーメン屋みたいにいうなよ。確かに家がつくのは多いよ。15人中11人がつくから。家康、家光、家綱、家宣、家継……」


藤村 「そんなもの覚えて何になるんだよ! 徳川も徳川だよ! ほぼ同じなんだから家康1世から家康15世まででいいだろ!」


吉川 「いや、色々複雑な継承をしてたりするんだから、そんなに簡単にはいかないんだよ」


藤村 「どうせ俺はそう言う複雑なことは何もわからないよ。外国の祭りだってよく知らないし」


吉川 「じゃあ知っていこうよ。クリスマス。今年から覚えればいいじゃん」


藤村 「一体なんの祭りなんだよ、そのクリスマスってのは」


吉川 「イエスの誕生日って言われてるんだけどさ」


藤村 「また家系! 何代目の将軍なんだよ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る