モチーフ

吉川 「欺瞞に満ちたこの世界の真実をさらけ出してやる!」


ゴリ 「秩序を乱すのはやめたまえ!」


吉川 「何者だ!?」


ゴリ 「愛のヒーロー、ザ・ゴリラマン、参上!」


吉川 「ゴリラマンだとぉ? 聞いたことない」


ゴリ 「ザ・ゴリラマン。ザ! わかる? ザ! 日本人はザを軽視しがちだから。ロード・オブ・ザ・リングじゃなくてザ・ロード・オブ・ザ・リングスなんだよ。スも軽視するなよ!」


吉川 「いいだろ、略称で言ってるんだよ!」


ゴリ 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーじゃなくてガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーだから! 真ん中の一個抜くだけで何か節約した気になってるのか?」


吉川 「日本人にはそういう傾向があるんだよ! 文句は配給会社に言えよ」


ゴリ 「秩序を乱す悪人め。お前は何のモチーフなんだ!?」


吉川 「モチーフ? モチーフって何?」


ゴリ 「そこから? 何もわからないで暴れてたの? あるだろ、モチーフ。例えば私はゴリラだ。ゴリラのコミュニケーション力とマネジメント力を併せ持ったヒーロー、ザ・ゴリラマン」


吉川 「ゴリラにコミュニケーション力とマネジメント力のイメージないだろ。そもそもヒーローに必要とされる能力ですらない」


ゴリ 「じゃあお前は何なんだ?」


吉川 「いや、ないよモチーフなんて。ある方がおかしいだろ」


ゴリ 「さては気持ち悪いおじさんがモチーフの怪人だな?」


吉川 「失礼だな。モチーフにしてるわけじゃないよ! 別にそうでもないのに気持ち悪いおじさんに寄せてるやつなんていないだろ!」


ゴリ 「他の何かには見えない」


吉川 「だからないんだって! だいたい気持ち悪いおじさんってなんだよ。おじさんでいいだろ! 気持ち悪さはお前の主観だよ!」


ゴリ 「おじさん全体の中からすると気持ち悪めだと思う」


吉川 「たとえそうだとしてもモチーフはおじさんでいいだろ! お前だって気持ち悪いゴリラがモチーフって言われたらどういう気分なんだよ!」


ゴリ 「ハッハッハッ。ゴリラに気持ち悪いやつなんていないぞ」


吉川 「それはお前の解釈だろ。ゴリラ社会じゃ意外とそう思われてるやつもいるだろ」


ゴリ 「気持ち悪いやつはチンパンジーだ。ゴリラはみんな気のいいやつ」


吉川 「チンパンジーとゴリラは種族が違うだろうが! 別にゴリラの劣化版がチンパンジーってわけじゃないよ!」


ゴリ 「でも人類の劣化版がおじさんだろ?」


吉川 「全おじさんに謝れよ! 別に人類として脱落したからおじさんという種族になったわけじゃないんだよ! そこに階層はないの!」


ゴリ 「そんなこと言ってないで早く人類になれるように頑張らなきゃ」


吉川 「頑張りようがないよ! 人類だよ! おじさんも人類! もうなってるから」


ゴリ 「だったら結局何がモチーフなの? 気持ち悪いおじさんでもないなら」


吉川 「モチーフなきゃいけないか?」


ゴリ 「モチーフもないのに秩序を乱すような悪事は働いても意味がないだろ。それは単なる迷惑なおじさんだ」


吉川 「一応俺は欺瞞に満ちたこの世界に真実をさらけ出してやることを目的としてるんだが」


ゴリ 「いるから。そういう人いっぱいいる。モチーフなきゃ訴えも通らないよ。ただのネットで真実に目覚めたおじさんだよ」


吉川 「一番言われたくない! それが一番嫌!」


ゴリ 「どうする? いまならチンパンジー空いてるけど?」


吉川 「なんでチンパンジー推薦してくるんだよ。それだとお前のサイドキックみたいになっちゃうだろ!」


ゴリ 「嫌だよ! チンパンジーなんて。絶対にサイドキックにしない。あいつら性格悪いし」


吉川 「知らないよ! そんな類人猿同士のいざこざに巻きこないでくれよ」


ゴリ 「ニホンザルでいいんじゃないの? ニホンザルの向上心と冷静さを兼ね揃えたヴィラン」


吉川 「ニホンザルにそのイメージないよ! どこからイメージを持ってきてるんだよ?」


ゴリ 「ニホンザルマン。あ、違うわ。お前ら風に言うなら、ニホンルマン!」


吉川 「そのザは省略しないよ!」



暗転

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