イブ

藤村 「クリスマス・イブのイブってさ、クリスマスの時にしか使わないよね? 大晦日を正月イブとか言わないじゃん?」


吉川 「それなんだけどさ、別にイブって前日って意味じゃないからね」


藤村 「違うの!?」


吉川 「違うんだよ。勘違いされてるけど、イブはイブニングの略だから。クリスマス・イブはクリスマスの夜。実際にはクリスマス当日の夜のことを指してたらしいよ」


藤村 「イブは前夜祭的なイメージかと思ってた。だって日本では23日をイブ・イブとかいうじゃん」


吉川 「勘違いした上に気の利いたことを言おうとして、なんかもう全然関係ない事になってる状況だよな。そう言うやつに限ってイブってそう言う意味じゃないよって指摘するとキレたりする」


藤村 「イブは夜だったのか」


吉川 「まぁ解釈の一つとして、日付を超える夜、つまり前日から当日になる夜のことをイブという場合もある。だからギリギリ前日の夜であれば適用されるけども、クリスマス・イブの昼間なんてのは完全に間違い」


藤村 「クリスマス・ヌンになっちゃうのか」


吉川 「略さなくてヌーンでいいと思うけどね。当日だったらね」


藤村 「朝はクリスマス・モニだ」


吉川 「聞いたことないけど、言うならそうだね」


藤村 「しかしそんなこと言われたら俺が用意していたあらゆる日の前日をイブということで語感が面白くなるというエピソードが台無しになるじゃん」


吉川 「用意してたんだ。そういえばなにか言いかけてたね」


藤村 「話が脱線して次の日はウブって呼ぶことにしよう。さらにその次はエブだって展開していくはずだったのに」


吉川 「聞く限りそんなに面白くなる気はしないけど」


藤村 「いや、言い方がすごい面白いから。特にエブの言い方はもうそこだけ切り取っても面白い」


吉川 「エピソード自体じゃなくて面白くなりそうな要素を語ってくれてるの? なにそれ、予告編?」


藤村 「いや、もうイブが前日じゃなかったということで構成がメタメタになったから話す気はないんだけど」


吉川 「じゃあなに? 何を俺は聞かされてるの?」


藤村 「全体を話す気はないんだけど、せっかくだからクライマックスの部分だけでも。エピソード供養というか」


吉川 「せっかくってなんだよ。エピソードトークのクライマックスだけを聞かされた経験がないから、どういう気持ちで聞いたらいいのかわからない」


藤村 「だって今更イブが前日なんだからさ、なんていう話できる? 違うのに。本当は違うぞっていうのが頭の隅をよぎっちゃうだろ! 前提が違うのにそこからノリノリで展開していく愚かな姿を見てあざ笑いたいのか? そう言う意味で笑って欲しいわけじゃないんだよ!」


吉川 「別にそんなことで人を笑ったりはしないよ」


藤村 「俺は笑うタイプなんだよ! こいつノリノリで喋ってるけど、話の内容よりもバカさの方が面白いなって思っちゃうんだよ!」


吉川 「それはお前の性格が悪すぎない?」


藤村 「人間ってのはそういうものなんだよ。バカを見たら蔑みたい。自分を上げるのは難しいけど他人を見下すのは簡単だから!」


吉川 「人間全体に転嫁しないで欲しいな。あくまでお前個人のヒドさだから、それは」


藤村 「で、オチどうなると思う?」


吉川 「あ、イブの話? まだ終わってなかったの? 途中もどうなってるのかわかってないからオチとか考えようがない」


藤村 「じゃあその次の日はオブだなってことになって。オブ・ザ・イヤーのオブと絡めて上手いこと着地するというね」


吉川 「はぁ。そうですかとしか言いようがないな」


藤村 「実際聞けば結構盛り上がるはずだから」


吉川 「でも実際に聞いてないから」


藤村 「わかった。じゃあ次。クリスマスって丁寧語じゃん?」


吉川 「いや、マスは丁寧のますじゃないよ?」


藤村 「そうなの!? しまったぁ! じゃあこの話も無理じゃん。一応この話の展開を言うとね」


吉川 「もう展開はいいよ!」



暗転

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