黒ひげ

吉川 「なんか久しぶりだな、黒ひげ危機一発なんて。飛び出した方が負けでいいんだよね?」


藤村 「そうです。昔は違ったんですけど、今は公式でそうなってます」


吉川 「意外と緊張するな。これ一発目でいったら笑うよな」


藤村 「おやぁ? 最初から赤の剣ですか! 裏の裏をかいてきましたね」


吉川 「え、なにそれ。裏とかあるの? これなに? 剣の色って決まってるの?」


藤村 「赤はなんてったってスピードがあるから。その反面耐久力は劣るけれども初手で赤の剣は完全に決めに来ましたねぇ」


吉川 「ないでしょ。剣ごとにステータスの違いは。あるの? そういう設定が」


藤村 「公式にはないです」


吉川 「なにそれ、非公式ではあるってこと?」


藤村 「ガチ勢の中では俗に言われてますね」


吉川 「ガチ勢!? 黒ひげ危機一発のガチ勢がいるの?」


藤村 「逆になんでいないと思ったんですか? 相撲にだっているんですよ? あんなデブが裸でもつれあってるものにも」


吉川 「いや、相撲は伝統があるでしょ。言い方が悪いよ! 相撲は結構厳し目の勢がいるからそういうの言わない方がいいよ」


藤村 「だってそんな、黒ひげ危機一発が相撲に劣るみたいな言い方する方が悪くないですか?」


吉川 「えー。そんな思い入れあるの? なんかゴメンだけど。そんなだと思わなかったから。ガチ勢っていうからには他にも結構人数はいるわけ?」


藤村 「私は日本支部しか知らないですけど、それなりには」


吉川 「支部が世界にあるの? なんか場所によってはセンシティブな遊びになりそうな気もするんだけど。黒ひげ危機一発ってもっとこう、適当にやって楽しむパーティゲームじゃないの?」


藤村 「確かにそういうカジュアルなやり方もいいと思います」


吉川 「カジュアルじゃない場面で黒ひげ危機一発やるやついるんだ?」


藤村 「では私が。やはり初手はセオリー通り青の剣でいかせてもらいます」


吉川 「セオリーもあるの? 真剣に攻略しようと思って取り組んでるんだ」


藤村 「……ふぅ。やっぱり青は安定してますね。さ、どうぞ」


吉川 「そっちだけなんか攻略法みたいの知ってるのズルくない?」


藤村 「いやいや、知ってたとしても、実戦は運ですから。例えばサッカーのルールを知ってる素人と、『え、このひらけた草原はなに!?』って言うレベルの素人では一見するとルール知ってる方が強そうですが実際は運じゃないですか」


吉川 「運ではないよ、サッカーは。サッカーは確実に技術の差がでるだろ。黒ひげ危機一発と一緒にするなよ」


藤村 「あ、じゃああれですよ。野球のルール知ってる人と、『お前このバットで殴り殺すぞ』って人が戦ったら同じくらいじゃないですか?」


吉川 「いや、殴り殺す人が勝つと思うけどね。何を勝ちというかはわからないけど、とにかくそいつの方が生き残るだろうね」


藤村 「黒ひげ危機一発は究極を言えば運です。ただ麻雀だってパチンコだって運ですけど、期待値を高める技術というのはあるわけじゃないですか? 遊びじゃないんですよ」


吉川 「遊びでしょ? 黒ひげ危機一発に技術入り込む余地ある?」


藤村 「そもそも最初に言いましたけど、昔は飛ばした方が勝ちだったんです。なぜなら海賊の黒ひげは縄に縛られて樽に入れられてるという設定だからです。剣を刺して縄を切ることで仲間である黒ひげが脱出できるというストーリーなのです」


吉川 「あ、そうなんだ。一応ストーリーあるんだ」


藤村 「うぅ。……ズズッ」


吉川 「え? 泣いてる? なんで急に、俺なにか言った?」


藤村 「黒ひげの樽に入るまでの苦難を考えると、耐えられなくて」


吉川 「嘘だろ。そんな感情移入するストーリーだった?」


藤村 「さぁ、俺のことは気になさらずに。どうぞ刺してください」


吉川 「二人で黒ひげを囲んでるのに気になさらないの難しくない? 刺してくけど。……あっ!」


藤村 「あっ!」


吉川 「負けちゃったかぁ」


藤村 「というわけで負けた方は実戦をやってもらいます」


吉川 「なんだよ、そのデカい樽! 嘘だろ!」


藤村 「遊びじゃないですから」


吉川 「遊べよ!」



暗転

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