吉川 「じゃあ、おまかせで」


藤村 「へい、かしこまりました。ではまず旬のブリになります」


吉川 「ブリいいですね」


藤村 「はい、こちらブリ8貫です」


吉川 「8貫!? え、一人なんですけど」


藤村 「旬ですから」


吉川 「いや、旬だからっていきなり8貫食べられないですよ」


藤村 「いえいえ、これが意外と食べられるものなんですよ。この時期だとアブラがあんまり乗ってないのでしつこくなくペロッといけちゃいます」


吉川 「いけたとしても! もっと色々頼みたいじゃない。なんで初手で8貫きてそこそこお腹落ち着けちゃってるのよ」


藤村 「そうですか。ちょっと多かったですかね」


吉川 「ちょっとどころじゃないけどね。普通8貫来ないから。宅配寿司の好きな人用パックだから」


藤村 「あ、お飲み物はまだでしたか。何にいたしましょう?」


吉川 「じゃあビールで」


藤村 「はい。こちらビールが4ガロンになります」


吉川 「4ガロン!? ガロンてなに? 使ったことないよ、その単位」


藤村 「うちは昔っからガロンでやらせてもらってるんで」


吉川 「ガロンでやらせてもらってる寿司屋あるの!? 1ガロンがまずいくつよ」


藤村 「3.8リットル弱ですかね」


吉川 「1ガロンでも多い! 4でくる? ピッチャーで頼んでもそんなにこないよ!」


藤村 「でもね、意外と飲めたりするんですよ、これが」


吉川 「飲めるかどうかは個人差だろ! たとえ飲めてもビールばっかりそんなに飲みたくないよ!」


藤村 「続いてサワラになります。1ダースで。右から順にどうぞ」


吉川 「1ダース!? 12貫! 寿司屋でダースの単位を使うなよ! え? 俺のこと大巨人に見えてる?」


藤村 「でも食べてみると9貫目くらいから味の奥深さがよりわかるようになってくるんですよ」


吉川 「そんなに食べなきゃ奥深くいけないの!? じゃもういいよ、浅瀬でいいよ。浅瀬で色々な味を食わせてくれよ」


藤村 「次はイクラですね。これは目の前で盛っていきます。はい、ご一緒に! そーいっ! そーいっ! そーいっ!」


吉川 「いやいやいや、ストップストップ! もういい! 大丈夫! それは居酒屋とかでは嬉しいサービスだけども! ダースで来たあとにそーいっはいらない! 0.1そーいっでいい。控えめで!」


藤村 「そうですか? では続いてマグロにいきますか。サクで」


吉川 「なんで? なんでサクでくるの? 切ってよ。寿司じゃないじゃん。サクで

こられたらそれはもう寿司じゃなくて生臭いプラレールなのよ」


藤村 「切るとだいたいこれが20貫くらいになりますね」


吉川 「全部じゃなくていいでしょ! なんで全ベットするの? そのサクから切った中の2貫でいいんだよ」


藤村 「そうすると、次のお客さんに前のお客さんの残りを出すことになっちゃうんで」


吉川 「普通そうでしょ! 別にそれは言わなくていいよ。前のお客さんの残りですみません、みたいなこと言ってる寿司屋ないよ? 切ったんなら残り物って思わないでいいから」


藤村 「そうですか? じゃあこれ前の客さんが食べなかったガリですが」


吉川 「それはダメだよ! 程度を知れよ! ガリは新しく出せよ!」


藤村 「でも手を付けてなかったんで」


吉川 「それでも飲食店の倫理としてダメだろ! 一回出て戻ってきたのはダメ! サクのは出す前だからOK!」


藤村 「なるほど、結構通ですね」


吉川 「通ではないよ! 普通だろ」


藤村 「お客さん、わさびの方は……」


吉川 「少なく! 普通でいいんだけどこのお店の場合は極力少なくていい」


藤村 「少ないって言うと、罰ゲームでいうとどのレベルですか?」


吉川 「罰ゲームでは表さないんだよ! どんなものも罰ゲーム単位で計ることはないんだよ」


藤村 「じゃあ罰なんですか?」


吉川 「罰じゃない! 風味としてのわさび! 風味でちょっと気がつくくらいの!」


藤村 「お客さん相当な通ですね」


吉川 「逆に通じゃない客はどんな注文してたんだよ。もういいよ、お会計を」


藤村 「へい、お会計の方が……えーと、1400円になります」


吉川 「安い! なんで? タヌキに化かされてるのか? ダースで出たのに」


藤村 「うちはいいものを手頃で大量に、を心がけてますので」


吉川 「大量はもうちょっと加減を知ってほしいけど。じゃあ1万円で」


藤村 「はい! ではお先に大きい方を10円玉で800枚と、残り細かいのを1円玉で……」


吉川 「最後まで量が多い!」



暗転

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